2008/5/22

mudan tensai genkin desu -yuki

いくら未来の事が分かったとしても二年後なんて遠すぎると思います。

「でもさ、それってフユは大学には絶対入れるってことじゃない? いいなー」
妙に楽しそうな美菜子。他人事だからそういうことを言えるんだと思うよ。
私は頬杖して中学時代からの友達を白い目で見た。
「そうかなぁ。だって私が今このアクセサリを捨てちゃったらあの日記とは違うでしょ。
 極端な話、私が明日死んじゃったらやっぱり違うわけだし。
 もしあれが未来だとしても可能性の一つでしかなくて、大学入りたいならちゃんと勉強しないといけない気がする」
「ああ。そうかもね」
他人事だ! 他人事万歳!
私はもてあそんでいたブレスレットを元通りポーチにしまった。ふかーいため息をついてみる。
登校してすぐ私は美菜子に「やっぱりあのブログあった!」って言ったんだけど、 二人で携帯から見てみたらやっぱりブログは「存在しないページ」だった。 私の携帯から見てもそう。何だっていうんだよもう。
「例えば明日のことが分かるっていうなら便利だと思うけど、二年後だよ? 微妙すぎて何の得にもならないし」
「うーん。なるほどね。……で、もうそのブログが自分の未来っていうのは確定なの?」
「ろ、六割……いや、ありえないって思ってるんだけどね!」
「どっちなの」
そんなこと言われても自分でもよく分からない。
そうとしか考えようがないとも思うし、そんなわけないだろ、とも思う。あーイライラして叫びだしそう。
けど、ポーチのファスナーを乱暴に開け閉めしている私を見て、美菜子はぽんと手を叩いた。
「本人に聞いてみりゃいいじゃん。コメントできるんでしょ? そのブログ」
「コメント!?」
「手っ取り早いでしょ。やってみてよ、今日まだあったら」
た、確かに手っ取り早い。けどそんなこと思ってもみなかったよ。
第一それってどうなの? って気もするし。
ブログ始めて三日目に、知らない人からのコメントで「あなたは未来の私ですか?」とか聞かれたらブログ削除するね。私なら。
でも未来じゃないなら何であんな日付でブログ書いてるんだろ、ってのもあるし、写真もあるし、あああああああ!!
「ちょ、ちょっと勇気でないかな。コメントは……」
「ふーん。じゃ、ほっとけば? 実害はないわけだし」
「精神的苦痛を被ってるけどね」
「自分に慰謝料請求するといいよ」
「む、虚しい」
私はポーチを鞄に仕舞うと代わりに携帯を出す。受信メールをチェック、したけど待っている人からのメールはなし。
ま、連絡がないってことは問題がないってことでしょう。そう思うことにする。
「あー気になりすぎて疲れてきた……」
「忘れたら?」
まったくもってその通り。私はだから思考を放棄することにしたのだ。

家に帰ると既にお兄ちゃんがいてリビングでくつろいでいた。
今年大学二年生のお兄ちゃんは火曜日と木曜日は私より早く帰ってくる。
一方早生まれで一学年下の弟はいつも部活で私より遅い。
お兄ちゃんは何かの雑誌を読んでいて、みるからに暇そうだったので、私は急いで着替えてリビングに戻った。
「ね、お兄ちゃん宿題手伝って!」
「自分でやれ」
「そこを何とか。数学分からないんだよう」
「分からないと思ってるから分からないんだ。公式と解き方を覚えればどれも一緒だろ」
言いながらもお兄ちゃんはソファに座りなおす。どうやら見てくれるらしい。ラッキー。
私はお兄ちゃんの指導の下、一時間ほどかかって小突かれながら何とか宿題を終えることが出来た。ほんとお兄様様です。
ノートの間にプリントを挟みながら、私はふと聞いてみる。
「お兄ちゃん、私も大学って入れるかな」
「勉強すればな。お前、国語と社会は悪くないし」
「本当? ドイツ語とかギリシア語とかやれる?」
「ギリシア語って古典ギリシア語か? 難しいぞ」
お兄ちゃんはそれだけ言うとまた雑誌を読み始める。くそう、つれないなぁ。
でもちょっと興味わいたよ。このお兄ちゃんが難しいっていうなんて。
どこの大学いって何を勉強したら古典ギリシア語なんてやることになるんだろ。

その日のIrisブログには「フユ」のお兄ちゃんのことが少し書いてあった。
本当にこれ未来なのかな。お兄ちゃんが社会人になるなんてまだあんまり想像つかないよ。
コメントはどの記事にもついていない。「フユ」の友達とかは見ていないのかな。そもそも家族に教えられて作ったらしいけど。
私がコメントしてもいいんだろうか。けど、して何を聞くの? もし本当に私だったらどうする?
聞きたいことはいっぱいあるけど……きっと二年前のテストの問題なんて「フユ」も覚えてないね。私も覚えてないんだから。