2008/5/23

mudan tensai genkin desu -yuki

例えば今の私が二年過去に戻って、過去の自分に会えるとしたら何を言うんだろう。
高校受験の時に消しゴムわすれたこととか、スポーツテストの時に体操着忘れたこととかを教える? って忘れ物ばっかりか。
でもニュースで流れるような重大な事件を教えて、これを防ぎなよ! って言って防げるかどうかって言ったら私には荷が重い気もする。
私は単なる女子ですよ。何の変哲もない女子。殺人事件とか大事故とか多分防げない。
ニュースとかを見て「あらかじめ知ってればなー」って思ったとしても、それはやっぱり実現を想定していない呟きで、少なくとも私に限って言うならただ心を痛め た感想でしかないんだ。 そして、こんな風に過去へのアクセスを軽く考えてしまえるってところが、私がこれまでの人生において特に不幸も悲劇も経験していない、のほほんと幸福に育ったことの証なんだと思う。 きっと真剣に過去を変えたい! って思う人だっていっぱいいるはずだから。
私、そういうのないよ。そりゃたまにもっと子供時代に戻りたいとは思うけど、それとは違うでしょ。
自分がやり直すんじゃなくて過去の自分に助言するんだから。その結果まったく違う自分になっちゃったら……って思ったらやっぱり怖いし。
関谷布由はハングリー精神の欠片もないです。はい。ちょっと凹んできた。
そういう理由で、私は問題のブログについては放置することにしました。気にしない、これが一番。
向こうだってきっと過去の自分(?)に読まれているなんて思ってないだろうしね。不干渉不干渉。
それよりもっと大事な事が今の私にはあるのだよ。明日の事が。

「何、姉ちゃん明日出かけるの?」
「そう。だから日曜日だったら買い物つきあえるよ」
俊樹の「明日、部活の買出し手伝って」という要求に私はにんまりと笑って答えてやった。
我が家の兄弟は比較的仲がよい、と思う。同級生の中には兄弟とほとんど口もきかない、っていう子もいるけど私はそうじゃない。
話すし、遊ぶし、一緒にでかける。仲良きことは美しき哉。
だからいつもなら少し面倒な買出しも付き合ってやっただろう。だけど明日は駄目。先約がある。
「誰と出かけんの? まさかデート?」
「ふっ。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
「いつか一緒にいた男子校の奴じゃないだろうね。あそこの生徒評判悪いよ」
何それ。ちょっと気分を害したよ、私は。
無言でソファに寝そべる俊樹の足をつねってやる。くそう。贅肉ないな。筋肉ばっかり。当然奴は痛がる素振りも見せなかった。
「あのね、どこの高校とか、何の部活とか、そういうことで人を一まとめにして判断しないの。とても失礼なことだよ。分かった?」
「それは分かるけどさ。姉ちゃん世間知らずだからなー。人間誰でもいい人に見えてない?」
「さすがにそれはない」
私は君より二歳近く年上です。まるで妹を見るような目で見ないで欲しいです。
視線を移すとお兄ちゃんはまったく関わる気がないらしく、何か難しい本を読みふけっている。
お兄ちゃんにそういうこと言われるならまだ分かるけど、お兄ちゃんはそういうの関わらない人だしね。
「姉ちゃんはさ、お人よしなのに人の忠告はまず聞かないのな。マイナス評価は全部悪だと思ってない?」
「まだ言うかっ! 実物を知りもしないくせに」
「知ってるよ。瀬戸和幸だろ」
「え?」
何で知ってるの? と聞く前に俊樹はさっさとリビングを出て行ってしまった。背中に若干不機嫌が漂っていた気もする……けど私悪くないよね!
そんな思いを込めてお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんは私の視線に気づいたのか一瞬顔を上げた。
「自分の視点に拘れば所詮平面でしか見えない。他人の視点を借りれば立体になることもある」
そんな、分かるような分からないようなこと言わないで下さい。
ともかく何となく説教されたような気分を味わって―――― 私は少し消沈して、自分の部屋に戻った。

今日は例のブログを見る気になれなかった。二年後なんて遠すぎて知っても仕方ない。
どちらかと言えば私には明日の天気の方が重要! 天気予報のが大事です!
三日前から準備した服と靴とバッグをチェックして……最後に目覚まし時計をきっちり設定。
ずっと楽しみにしていたんだからね。俊樹の言うことなんて気にしない!
既に出来てしまっている隈を落とす為にも、私はこの日早寝した。
どうか明日は晴れてくれますように!