2008/5/28

mudan tensai genkin desu -yuki

私の誕生日はもう明後日。
実は朝食の時にちょっと俊樹に探りをいれてみようかな、って思ってた。
でも今日に限って部活の朝練でもう登校しちゃったんだってさ。くそう、体育会系め。
私は諦めて自分も登校して―――― 美菜子に昨日のコメントの話をしてみた。

「日付ね。それは確かに変な話だわ。むこうも気味悪いだろうね」
「だよね」
ブログのコメントには日付を指定するところなんてない。
だから過去からそんなコメントがついたら怖い。かなり怖い。私だったら泣いちゃうかも。あ、でも私なのか、な?
私は自分の椅子の上に膝を抱えて座った。スカートの下にはスパッツ履いてます。ちなみに。
「とりあえず30日にはわかるし、それまで様子見しようかなって」
「そっか。うーん、何か落ち着かないね」
「うん」
落ち着かないよ。落ち着かないけどしょうがない。
私は椅子の背もたれに体重をかけてガタガタと揺らしてみた。これが今の私の心情です。行儀悪いけど。
「そういえばその電車の中で会った人、正体分かったの?」
「あー」
そういえば謎のお兄さんについて、昨日美菜子にちらっと話したのだった。
「たぶん、会ったことないと思うんだけど。思い出せないから」
「電車の中でフユを見初めてたとかじゃないの? 年上っていいよね」
見初めてた、とはまた随分古風な言葉を。
でもそれで名前までわかるのかな。私電車の中で自分の名前を口に出したりしてないよね。
登下校は一人で電車に乗ってるし、鞄に名前が書いてあるわけでもない。
ブログほどってわけじゃないけど、こっちの謎も不思議ですよ。不思議。
けど、期せずしてお兄さんについての不思議は今日、急に解消されることとなった。
なんでかってね、うん。家に帰ったらあのお兄さんがリビングにいたから。
―――― めちゃくちゃびっくりしたよ!

お兄さんの隣に座ってるお兄ちゃんは―――― って紛らわしいな! つまり私の兄は、彼を指して「俺の友達」と言った。
で、友達のお兄さんの名前は斉藤要さんというんだって。カナメさん。
去年、私と俊樹はお兄ちゃんの大学の学園祭に行ったんだけど、その時カナメさんは私たちがお兄ちゃんと話しているのを見てたらしい。
ぜ、全然気づかなかった。人間もうちょっと周囲に注意を払うべきかも。
お母さんがいなかったから紅茶を淹れて出した私に、カナメさんは優しさ100%の笑顔をむけてくれる。
「ありがとう、布由ちゃん。吃驚させちゃってたかな」
「あ、へ、平気です。それより電車でありがとうございました!」
「何だかぼーっとしてたからね。悩み事でもあった?」
「いえっ。そういうわけではなくて、でも色々……」
まごまごとしている私にカナメさんは笑顔のままだ。うう、優しいなぁ。包容力ある人ってこういう人のことを言うんだろうか。
カナメさんは、お兄ちゃんが自分の部屋に本を取りに行った時、二人になると
「もし進路のこととか、身内に話しにくいことがあったら相談にでも乗れるよ」
と言ってメールアドレスの印刷されたシールをくれた。あ、ありがとうございます!
見ると携帯と、これはPCかな? 二つ書かれてる。私はそれをそっとポケットにしまってお兄ちゃんと入れ違いに自分の部屋に戻ったのだった。

私は部屋に戻ってようやく制服を着替える。スカートのポケットからカナメさんにもらったシールを取り出した。
そうだ、携帯に入力しちゃおうね。
サイトウ カナメで登録してしまうと、私はメールをチェックしなおす。その中には昨日望からもらったメールもあった。
「相談の電話してきていいよ」ってメール。
私は少し迷ったけど、あと二日待つまでの間落ち着かないし、結局望に電話してみることにしたんだ。
邪魔な時間じゃないかな、って思ったけど望はすぐに電話に出てくれた。
「未来のブログ、ね。なるほど」
「そう。ちょっと気味悪いよね。でもそうとしか思えないんだ」
望は電話の向こうでちょっと黙った。どうしたんだろって思うと、彼女は聞き返してくる。
「まず自分のメールアドレスでメールが来たんだよね。で、ブログには猫の写真が使われててアクセサリの写真もある」
「うん」
「彼氏は別の人間ぽくて、彼女はあさっての弟さんの誕生日プレゼントを知ってるんだよね」
「そうそう。そうなんです」
「そのブログ見てみたいな。ちょっとURL教えてくれる?」
「あ、駄目なの。何か携帯とかから見ても、存在しないページになっちゃうんだよね」
「あー……」
望はまたちょっと黙ると「それでもいいからURL教えて」と言ってきた。私はPCの履歴を見ながら伝える。
最後に望はこう付け足した。
「ちょっと調べてみるけどね、もし彼女が本当に未来の自分か知りたかったら、これからすぐに起こる事件のこととか聞いてみて。
 家族のこととか学校のことじゃなくて。あとは―――― 弟さんとね、ちょっと話した方がいいかも。彼氏のことについて」
「俊樹と? 瀬戸君について?」
「うん。そういうことは一度スッキリした方がいいよ」
それは、確かになんかギスギスしちゃったような気もするけど。俊樹とかぁ。何か恥ずかしいよ。
でも望のいうことにも一理あると思ったから私は「ありがとう、またメールする!」と言って電話を切ったのだ。
それにしても、未来の事件のことなんて……望、自分を基準に考えてない? 
私が同じこと聞かれても2年前の、それもすぐに起きそうな事件なんて一つも覚えてないよ!

今日の「フユ」のブログはやけに短かった。
もともとそんな長い文を書く人じゃなかったけど、それにしても短い。
でも今日は家で前に飼っていた猫「ワンコ」の話について触れられてて―――― それは、私の知るものと同じだった。
これって私の為に書いてくれたのかな。
私はちょっとしんみりして、ブログもとても事件についてなんてコメントできる雰囲気じゃなかったんだ。