2008/5/29

mudan tensai genkin desu -yuki

何からどう手をつければいいのか、よく分からないんです。頭の中がぐーちゃぐちゃ。
でもとりあえずは望に言われたことを! ということで俊樹にメールしてみた。
最近、やつは朝は会わないし夜も夕食食べるとさっさと部屋に戻っちゃうんだよね。気まずいったらない。
だけど今日は逃がさないよ! 部活が終わるのを待ち伏せしてやる。

俊樹が所属してるのはサッカー部。
スポーツに詳しくない私は、やつが上手いのかどうかは分からないけど、朝から夕方すぎまで練習ばっかりしてる。
好きなんだろうな、きっと。でもそれとこれとは話は別だ!
部室のすぐ近くで授業が終わってから三時間。
待っていた私を見つけてやつはぎょっとしたみたいだ。
そりゃそうだよね、メールでは「話があるから家で」って書いておいて、実際は今待ち伏せなんだから。
お姉さまの粘着ぷりを思い知れ!
俊樹は諦めたのか、私と並んで帰り道を歩き出した。よし、は、話すぞー。
だけどいざそう思っても何て言えばいいのか! 急に萎む自分がにくい。
まさか弟に「瀬戸君のことどう思ってるの?」なんて聞けないし。何か違うよその会話。
俊樹はずっと黙っていたけど、私が何を言いたいか当然分かってたんだろうね、自分から話を始めた。
「姉ちゃんってあの男子校のある駅の、本屋で声かけられたんだろ? 瀬戸和幸に」
「あ、うん。何で知ってるの?」
「知ってるよ。俺も見たことあるもん、あいつらがあそこでナンパしてるの。
 単なるゲームなんだよ。声かけて引っかかるかどうか遊んでるだけ。
 真面目っぽい子が引っかかると点数高いって言ってたの聞いた。
 姉ちゃん、見るからに世間知らずだし、からかわれてるんだよ」
「………………」
私は、どう返事していいのか分からなかった。
俊樹が嘘言ってるんじゃないってのは分かる。なんたって姉弟だし。
やつはすごく言いにくそうに、でも譲らないって顔してた。
それで肝心の私は―――― ああ、やっぱり、って気持ちと、違うんじゃない? って気持ちの両方があったんだ。
瀬戸君みたいに格好いい人が私を相手にするはずがないよね、とも思ったし、
そんな遊びの為に、本当に休日時間割いて付き合ってくれたりするのかな、とも思った。
何かこう、「騙されてたなんて、うそ!」ってならないのは自分でもちょっと思ってたんだと思う。
彼と私は不釣合いじゃないかなって。メールもちっとも返って来ないしね。

俊樹は黙ってる私を心配してくれたのか、ぶっきらぼうな声を出した。
「姉ちゃんはもっと色んな男選べるよ。そのとろいところも面倒見てくれる人がいるって」
「とろい言うな」
「本当にとろいし」
これでも自分では頑張ってるんだよ! 生意気な弟だな、くそう。
でも俊樹は俊樹なりに心配してくれてたってのはよく、分かった。
私は鞄のポケットに差し込んである携帯を見る。
「俊樹の言いたいことも分かる。教えてくれてありがとう。
 でも私やっぱり瀬戸君に自分で聞いてみるよ。じゃないと失礼だと思う」
「ひどいこと言われるかもよ」
「うーん……そうなったら仕方ないよ。私がちょっと馬鹿だった、ってことだから」
にやりと笑って見せると俊樹は困った顔をした。
やつのそんな顔を見るのは小学生以来の気がして―――― ちょっとだけ気が晴れた。

帰ってから私は瀬戸君にメールを打った。
いつも返って来ないメール。だから本当は電話か、直接会いに行ったほうがいいのかもしれない。
でも私はメールにした。突然の電話も押しかけも迷惑かもと思ったから。
こう思っちゃうのってやっぱ彼女っぽくはないんだろうな。けど私は私だもんね。
それで、このメールが返って来なかったらやっぱりその時は、私と瀬戸君はもう終わりってことなんだと思う。

この日「フユ」はブログを書かなかった。
私のせいかな。忙しいのかな。
「フユ」も高校生の頃、こんな風に悩んだのかな。
俊樹は最後に「姉ちゃんは結局人の言うことに従わないんだから。振り回されないでいればいいと思う。……ごめん」って言ってた。
私は「フユ」のブログに振り回されているんだろうか。それとも私が振り回している?
よく分からない。誕生日はもう明日だった。