2010/5/20

mudan tensai genkin desu -yuki

「布由、もうすぐ誕生日だね。何が欲しい?」
そう言ってやつはにこにこと尋ねてくる。人畜無害な顔しても騙されないからね!
「もうすぐ付き合い始めて1年半か。お祝いでもしようか?」
「私たち付き合ってたの?」
「当然」
ック。まったくこたえてない。駄目だこいつは。
私は白い目で後ろからモニタを覗き込んでくる彼を見上げた。
彼 ―――― 斉藤要はしらっとした表情で笑顔を作っている。昔はこの外面に騙されたものだけどね、さすがにもう本性知ってますから。
要は私の作業を見てにやりと笑った。
「何作ってるの? ブログ?」
「そう。ブログに日記をつけ始めようと思って」
「いいね、応援するよ」
「ならデザイン変えといて。あのブログの……アイリスと同じやつに」
「何の話?」
白々と言いやがった! 絶対あんたが犯人でしょ!
私は冷たい視線で彼を睨んでやったが、要は人の悪い笑顔になると「いいよ、明日までにやっとく」と返してきたのだった。
やっぱりお前じゃんかよ!

今までで一番謎めいた誕生日を迎えたあの年、私はあの後しばらく瀬戸君と付き合ってたんだけど、私が早々に受験勉強を始めると時間のずれや将来観の相違? で 結局別れてしまった。仕方のないことだけど思い出すと少し悲しい。けど、青春ってそんなものなのかもしれないね。
その後私はこの男に勉強を見てもらったり、ストーカー紛いのアピールを繰り返され、結局今に至っている。何でだろうって自分でもちょっと思う。
例のブログが誰の仕業だったのか、私はもう薄々分かってるけど誰にも口に出して確かめたことはない。
ただお兄ちゃんが「布由はもっと自分の未来像を具体的にイメージできれば、勉強もやる気になれるだろうにな」と要に言ってたことや、俊樹が私のブレスレットを壊 しちゃってお兄ちゃんに「こんななっちゃったけどどうしよう」って写メールしたこととか、あとは俊樹が「姉ちゃんにあんまりよくない彼氏が出来た!」って要にちくった のを知っているくらい。
それらバラバラのピースを誰が繋ぎ合わせて私に未来を見せたのか、なんてもうどうでもいいよね。私は今その「未来」にいるんだから。

無事、狙っていた大学の人文学科一年生になった私はブログ名を設定する。名前は「Iris」。
要はそれを見て喉を鳴らして笑った。うるさいな。無視無視。
最初の記事になんて書くのか、もう決まっている。
そして、他に何を書いていくのかも。
もしかしたら。
本当ーにもしかしたら、過去の私がこれを読むのかもしれない。そして希望を持つのかも。曖昧で、けれど確かにある将来に。
だから私はブログを書こうと思う。できれば毎日。
「今の彼氏とずっと一緒にいたいって書いてよ」
「うるさい。ヤラセはいらない」
言い捨てると要は「残念」と言いながら離れてく。別の部屋にでも行ったんだろう。
まったく嫌な男だ。
私は一息で気分を切り替えると。キーボードを叩き始める。
あの年、あの時、ただ戸惑って右往左往するだけだった私に向けて。
そしてずっと未来の私が懐かしく思い出すであろう「今」の為に。
まず最初の記事の題名は――――