ラ・クカラチャ 02.5

ふわふわした黒いメイド服のスカートは成程、確かに深海魚みたいだし海月みたいにも見えた。

「あいつもこっちの人間か…」

夢幻だと思ってた。
でも、そうもいかなくなってしまった。
ロルの店って何だ。どう見ても年端もいかない少女にメイド服を着せるような店って何だ。
ラジエルって何。ベルゼブブって奴知ってる?
ケータイを片手にしたまま何から聞こうか迷ってた。
テンペランティア以外で聞きたいことは特にない、俺の方が頭はいいし。

「PSP返せ」

本文:明日返せ

たった一言。余分な文字は打たない主義なんだがそれではミツバは釣れない。
女にはマメに返信するけど俺にはまともな返信が来た覚えがない。
そこで俺は、申し訳ないが一言添えておいた。

「追伸 向こうで深海魚釣った。知りたくば返信寄越せ」

返信が来るのにそう時間はかからなかった。わかりやすい奴。


「Re:PSP返せ」

本文:深海魚って何!?女?
女と言えばあんまりラクさんには深入りすんな
俺は責任取れないから(^O^)/ってか取りたくない?
詳しく聞きたいので今からそっちに行く!

前言撤回、返信要らなかった。
メールを俺が読み終わるのと同時にチャイムが鳴る。

「こんばんはー」
「……PSPは?」
「家」
「メールタイトル読めよてめぇ。あっちのが本題」
「残念ながら俺にとっては深海魚が何なのかの方が本題。お袋さんは?」

わからん。と俺が言うよりも早く、ミツバがテーブルの上に置いてあるメモ書きを見つけていた。
並べられた皿に、ごめんの一言。

「仕事だと」
「だろうな」
「わからんとか言うなよ、あんなキレーなお母さんなのに」
「生まれた時から、ああだったから知らん」

簡単な話で、父親が死んだのは五歳の時だった。母子家庭になって、父親の遺産だけでも生きていけると知っても、母は仕事に出ることが多くなった。
家に居続けると泣いてしまうくらい愛してるんだもの!とか普通に言ってる。
母にとってどこまでもそれは本気だっていうのは幼心にもよくわかってしまっただけに、俺は好きにすればいいよって言ってしまうわけで。
実際、母子家庭でも余裕で予備校や大学に入れようとするくらいに苦労はないわけだし感謝してるのだけれども。

「で、深海魚って何?」

勝手知ったる他人の家、冷蔵庫から勝手に抹茶オレを取り出すミツバを見て、俺はようやく心底安心した。
昨日も飲んでた、それ。
自分がどうしようもなく不安だったことに気づいて、そして安心させられてしまった。
だから俺、こいつには勝てないんだよなあ。

「何笑ってんの、神」
「…なあお前さ、クラゲって漢字で書ける?」

案の定、ミツバは全く持って海月も海星も書けなかった。
もしまたあのおじょーちゃんにあったら言っておかないといけないなと思う。
やっぱり自己紹介は「深海魚」で妥協しておけよ、と。
質問ついでに思わず呟いた一言に、激しく後悔しつつ。

「なあ、インラインスケートの魔女っ子のアニメってあったっけ」
「……エロいやつなら知ってる」

後にこれは大ウソだって解ったけれど、ある意味おじょーちゃんのためには良かった気がする。
変な名前繋がりで、魔の手(ミツバの)から守ってやることになったんだから。いろんな意味で勘違いした俺も悪いんだけど。
…感謝してよ、ほんと。おじょーちゃん。

(でもおにーさんが余計なこと言わなければ良かったんじゃない?)と、どっかから聞こえてきたんだけどこれが気のせいじゃないのもまた後日の話。