君を誘う物語 08

「ねえサリーちゃん。トール君どうしようか?」
「そのうち自力で起きるから、放っておいても大丈夫だと思うよ。とりあえず深海ちゃんはお店を探してるんだよね?」
「うん。サリーちゃんは知ってる?ロルのお店。」
「うーん…聞いたこと無いなぁ。でも立ち話もなんだから、ちょっと寄っていきなよ。シュウさんなら何か知ってるかもしれないし。」
「週三?」
「シュウさん。」


 頭上で交わされるのん気な会話が次第に遠ざかっていくのを聞いてから、トールスは脱力して地面にのめりこんだ身体をようやく起こして二人の女子高生を見やった。


「おい、女子高生。」
「何?トール君。」
「なぁにー?」
「……なんでもない。トラヴィアータに行くなら送って行く。」


 傍目から見ればきゅるきゅると花でも散りそうな少女が二人。
しかしトールスに視界には何か得たいの知れない生き物が少女の皮を被っているように見える。
 じゃないというなら、どうして会話が通じないというのだ。


「あれま。どんな風の吹き回しー?」
「吹き回しってな…」
「だって『もう行くから』とか言ってたじゃん。」
「それで文句を言ったのはお前だろーが。」
「そーだっけ?」


 もう一度地面にのめりこんでやろうか、と。
トールスは思ったが、そんなことをしてもこの女子高生たちに抗議の意は通じないだろう。
 さて、「最近の若い者はよく分らん」というべきか、「女なんて永遠の謎だ」というべきか。
 どちらにしても不特定多数の若い女性にから異議を申し立てられそうだ。


「じゃあ行こうか。深海ちゃん。」
「うん」


 よいしょ、と。
深海は中の構造がどうなっているのか謎めいている鞄を手に取った。
 それに続いて沙里が自分のスクールバックを肩にかけなおして、そして抱えていた袋も持ち直す。


「それ、何が入ってるの?」
「これ?キシリトールガムとかキシリトールガムとかキシリトールガム。時々ハイチュウとメントス。」
「キシリトールガムばっかりなんだね。」
「何か知らないけど、人気なんだよね。こっちにはそういうお菓子が無いらしくって。増粘多糖類系?あ、ガムは増粘剤だっけ?」
「おお!サリーちゃんサリーちゃん!ゾーネンタトールイって、何かラスボスっぽい名前だよね!」


 何処がどうなればそういう発想になるのか、深海はちょっと謎だ、と思いながら。
トールスから見れば同じカテゴリーに分類された沙里はちょっとだけ腕に抱えたキシリトールガム満載の紙袋に視線を向ける。
腕から零れ落ちそうなほどに山盛り一杯な紙袋の中身がラスボスって何だか妙な感じだな、とか思いながら。


「はい。トール君。」
「え?何?」
「荷物。もってくれない?女の子はエスコートしてくれなきゃ。」


 適当なことを言ってゾーネンタトールイの魔の手をトールスに押し付けて、沙里は深海に手を伸ばす。


「はい。深海ちゃんも。」
「ゾーネンタトールイ?」
「いやいや、そうじゃなくて。荷物。トール君に押し付けちゃえ。」
「いいのかな?」
「いいよね?トール君。」
「――どうせ拒否権は無いんだろ?」


 きゃー、そうこなくちゃ。トール君かっこいー。
 思いっきり棒読みな賛辞を聞き流しつつ、トールスが深海に手を伸ばせば、深海は「ありがとー」と、のん気に笑った。
ちょっと可愛いじゃねーか女子高生、と、一瞬トールスもにへらっと笑みを浮かべたが、深海に渡された鞄は到底のん気に笑って返せるような代物ではなかった。
ぐしゃり、と。
トールスは想定外の重さの鞄を、うっかり地面に腕ごともって行かれたのだ。


「重いから気をつけてね?」
「――はい。」


 その姿を見てから補足した深海は、ある意味で確信犯なのかもしれない。
トールスはいかにも仲良さげに数歩先をトラヴィアータに向かって歩き出した二人の少女の後姿を見つめつつ、気合を入れて深海の鞄を持ち直した。
 肩が抜けそうな重量に、静かに涙しそうになったのは内緒の話だ。

というわけで。


「かくかくしかじかでお店を探してるらしいんだけど、シュウさんしってる?」


 さくっとおじの経営するカフェにやってきた一行は、到着するなり色々すっ飛ばして店長に話しかけた。


「すまん沙里、俺には理解できないんだが…」
「そうだよな!!それが正しい反応だよな?!」
「何だトールス。お前も来てたのか。沙里に振り回されてばっかりいないで仕事しろよ。」
「そう思うならまずは沙里を止めてくれ!」


 どすっと。
何の凶器を置いたんだ、と思わず突っ込みたくなるような音を立ててトールスが深海の鞄とゾーネンタトールイの群れが入った袋をテーブルに置く。
 どうしてゲートの向こう側出身の奴らはみんなこうなんだ、と。
さっき堪えた涙がまたちょっと滲みそうになったのは内緒の話だ。
 突然現れた姪の挨拶とか諸々すっ飛ばして放たれた言葉に、しかし店の主は慣れた様子でカウンターの向こうでやる気があるのか無いのかよく分らない雰囲気をかもし出しつつ、煙草の煙を吐き出してから今日もまたふらりとやってきた姪っ子に視線を向けた。


「で、どうしたと?」
「シュウさんは、お店知ってる?深海ちゃんが探してるらしいんだよね。」
「みうみちゃん?」


 かっちゃかっちゃと、話しながらも早々に紅茶の用意をし始めるあたりはさすがカフェのマスターと言ったところか。
 もちろん自分用に珈琲の豆もひきながら、シュウは沙里が指差した少女をみやった。
姪と同じ高校の制服の深海は、店の中をぐるりと一回り見てから沙里の声を辿って視線を向ける。


「シュウさん、この子は佐藤深海ちゃん。学校のクラスメイト。深海ちゃん、この人は寺島修さん。私の叔父さん。」


 とりあえず最低限の紹介だけをすると、沙里はさっさと自分の定位置と成っている窓際の一番端のテーブルに向かい、鞄を置くとブレザーを脱いで寛ぎモードを展開し始めた。
 その後姿を見てから、深海は改めてシュウに視線を合わせ、ぺこりとお辞儀をしながら答えた。


「はじめまして、佐藤深海です。サリーちゃんとは同じクラスです!」
「おー、ご丁寧に。俺は寺島修です。沙里の叔父です。」
「オサムさん?シュウさんじゃないの?」
「んー?」
 疑問符を浮かべて自分を見上げてくる深海に、シュウは少し面白そうに笑ってソーサーから紅茶をティーカップに注いでいく。


「まあ、お近づきのしるしに一杯どうぞ。」
「どうもどうも。」


 深海につられて軽く頭を下げてから、シュウは綺麗な琥珀色をした紅茶を深海に差し出す。


「サリーちゃん、お茶もらっちゃった。」
「どうぞどうぞ。シュウさんのお茶は美味しいよ。」
「うん。」


シュウは沙里にもお茶を渡して、沙里がそれにあっさりと口をつければ、深海もそれにつられるようにゆるゆると湯気を立てるカップに口をつけた。
砂糖もミルクも入っていない紅茶の香りが、もともと緊張感に程遠い深海の表情を、さらに緩める。


「おいしい。」
「それはよかった。」
「よかったよかった。」
「なぁマスター。俺もお茶欲しい…」


ほのぼのとお茶をすする女子高生二人を生暖かい眼で見つめる男性。
それらをどこか遠くから眺めつつ、疎外感を感じながらもとりあえず意見を口にしてみた自警団員一名。
 が、当然ながら厄日なトールスの意見は素敵にスルーされてしまった。
 何だかもう厄日というかなんというか。
ふっと思わず遠い眼をしながら、トールスは本部に戻ろうと扉の方に足を向けたが、そこでようやく深海が紅茶のカップから口を離した。


「トール君。帰るの?」
「ん?ああ。マスターは迷子相談の専門だし、沙里もいれば問題ないだろ?どうしても店が見つからなかったら、自警団の本部まで来いよ。それっぽいのが無いかどうか調べといてやるから。」


 だから今日はもうお家に帰らせて下さい。
なんて本心は、仮にも自警団員としてはとてもとても口に出来るようなことではないけれど。
 なんとなく、逃げ出すように返ろうとした手前、ちょっと前にも「見捨てる気か」なんてこいとも言われてしまったし、後ろめたいような気分になりながら応えれば、深海のその声につられるようにして沙里とシュウがトールスのほうに振り返った。
 三人六対の視線の中で、孤立無援のトールスはたじたじと視線を泳がせたが、こちら側でカフェを営む日本人とその姪が何か言うよりも先に、深海は紅茶のカップを片手に持ち直して、空いたもう片方でひらひらと手を振る。


「うん。ありがとう、トール君。とっても楽しかったよ。」
「――どういう意味で『楽しかった』のか、そこは聞かない方がいいよな?」


 他意は無い、他意は無いはずだ、と。
とりあえず自分に言い聞かせておくことにして、トールスは苦笑めいた笑みを浮かべながらも深海にひらひらと手を振り替えした。


「あ、待って、トール君。これ、お土産。」


 カランとベルを鳴らしながら扉を開ければ、ひらひらと手を振る深海の隣にいた沙里が、すばやく近寄り、扉の近くのテーブルに置かれていた紙袋の中からラスボスを一つ掴むと、トールスに差し出したのである。


「ゾーネンタトールイ…」
「別に画面端でハメ技仕掛けてきたり一撃で馬鹿みたいにゲージ持ってくラスボスじゃないから、安心して噛んでね。味が無くなったら捨てればいいだけだし。」


 どうやら、こちら側の大半の人々がキシリトールガムを喜ぶのに対し、トールスは例外的に頬を引きつらせた。
 綺麗に光沢を放つ緑色の菓子を眺めて、にっこりと笑う沙里を眺めて、そしていつの間にかその横で自分の鞄を漁っている深海を眺めて。


「はい、トール君。これ、私もお土産。一口チョコ♪」


 ゾーネンタトールイじゃないから大丈夫だよ!と。
すっかりどこぞのゲームのラスボスのような名前で定着しつつあるキシリトールガムの上にどっさりと載せられた一口チョコ。
 甘いものは嫌いじゃないが、これを握り締めて本部に帰れというのだろうか。


「よかったね、トール君。日本じゃ女の子は好きな男の子にチョコレートをあげる風習があるんだよー。」
「バレンタインだけだけどねー。」


 ねー、と。
 沙里と深海は顔を合わせて頷く。
ちょっとした悪戯程度の発言だ。
 しかも、沙里にいたってはこの手の冗談は二度目。
だというのに。


「う…わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 トールスは瞬間的に真っ赤になると、沙里と深海の土産を放り出してダッシュで逃げ出してしまった。


「沙里、お前やっぱりひでぇわ。」
「えー、引っかかるほうも引っかかるほうだと思うんだけどな。」


 脱兎のごとく逃げ去ったトールの後姿から、沙里はあっさりと視線を外し、飲みかけだった紅茶に視線を戻す。
 それに倣って深海もちびちびと紅茶の続きを楽しんだが、やはり淹れ立てに比べると少しだけ香りが飛んでいる。
 が、もちろんその微々たる違いなど気付くほど紅茶に精通していない深海は、満足そうに紅茶を啜った。
 しかしそのうち、ふっと思い出したかのように顔を上げたシュウが、ちびちび紅茶を飲んでいる深海に問いかけた。


「そういえば、お嬢ちゃんは店を探してるらしいが…」
「そーなんです!そーいえばそーだった!ロルのお店を探してるんだった!シュウさん…オサムさん?は、知ってる?」


 名乗られた名前と呼び名が違うことに、語尾が疑問系になる程度には迷いながら、深海は叫ぶ。


「ああ、シュウでいいよ。今じゃ誰もオサムって呼ばないしねぇ。」
「どうしてオサムさんなのにシュウさんなの?」
「漢字がね『修』なのよ。でもこっちにの人は呼びづらいのかね?気付いたらみんなシュウって呼んでたんだ。」


 苦笑めいて方眉だけ寄せておっとりと笑いながら、シュウは答える。
シュウにしてみれば、もう今更な話であったが、名前の奇抜さに関する苦労では勝るとも劣らない経験を持つ深海は、生真面目に頷いて応えた。


「名前、自分で選べないから面倒くさいよね。私も、凄く説明するのに苦労するんだよ。深海魚の魚を取った系って言ったら、トール君なんか苦悩して怒ってたし。」


 ということで、先ほどのトールスとのやり取りを話してやればシュウもさることながら、横で聞いていた沙里もなんだか微妙な表情を浮かべた。
 もちろん、トールスが怒ったのは別に深海の名前がどうこうというよりも、前後の会話の繋がらなさ具合に思わず叫んだという経緯なのだが。


「『佐藤』なんて何処でも居るし。」
「寺島だっていっぱい居るよ。」
「『みうみ』って誰も一発で読んでくれないし。」
「ああ、それで深海魚なのか。」


 今日何度目になるか分らない会話をもう一度深海が繰り返すと、シュウはようやくちょっとむくれたように深海がぼやいた訳を納得した。


「まあ、そういうな、深海ちゃん。深い海なんていい名前じゃないか。」
「本当にそう思う?」


 ぽむぽむと、シュウは深海の頭を撫でる。
自分の名前は嫌いではないが、先に名乗らないと間違われるか固まられるかのどちらかが殆どなのだ。
 新学期で各授業のたびにそんなことが起これば、ちょっとばかし嫌になっても無理は無い。
 シュウも沙里もそういった経験は無かったが、なんとなく深海がきちんと名乗るのが、礼儀正しさとかそういう部分だけではないと察した。


「うん、俺はいいと思うけどな、『深海』って名前。」


 亀の甲より年の功。
 にこりと微笑みながら頭を撫でる大人に、深海は陥落した。


「うわーん!!シュウさん大好きだーーーっ!!!」
「ぐおっ!!」


 故に、男の大人の対応は、正しく報われなかった。
がっしぃ、と。
 すさまじいまでの衝撃を伴って、感極まった深海がゼロ距離射程の熱烈抱擁をかましたから。
 ぎゅうぎゅうシュウにしがみつくという深海も行為は、もちろん紅茶を綺麗に飲み干してからだった。
こぼしたら大変!というのが、深海の言い分であっただろうが、しかしシュウからしてみればがっちゃんと勢い良く置かれたティーカップの方がよほど気になるし、それ以上にゼロ距離射程でモロに入ったので自分の肋骨が気になる。


「シュウさん良かったねー!独身貴族返上?」
「馬鹿言うな!俺だって犯罪者になるのはごめんだっつーの。おい、離れろ深海!」
「お嫁さんにしてくれたら離すー!」
「お前は結婚相手より先に目的地の店を探せ。」


 べりべりと、先ほどまで撫でていた頭を今度は混信の力を込めて引き離そうとする。
しかし、以外にも腕力が強いらしい深海は、がっしりとシュウの身体に腕を絡めて離さない。
 自分が力を入れれば余計に強く絡みつくと察したシュウは、無駄な抵抗は早々にやめることにした。
 シュウの分析どおり、深海は力を緩めてそういえばと思い出したようにぼやいた。


「そうだそうだ。ロルのお店を探してるんだった!でもロルは『ロルのお店』って言えば、誰かしら知ってるって言ってたんだけど、道行く人々は誰も知らないんですよねー。」


 むむむ、と。
頬を膨らませて深海は指折り思い出す。
 最初に出会った金髪のおにーさん、次のマルッと少年少女、そして先ほど走り去った自警団と、なんの偶然かクラスメイト。
 とりあえず出会った人々は全滅だった。
 誰かしらどころか、誰も知らないじゃないかー!と、そろそろかんしゃくの一つでも起こしそうな気分だったが、今度のシュウの反応はそのどれとも違っていた。


「店っつーのは、『ロル』の店なのか?それはもしかしてロルベールの奴の店のことか?」
「そう!ロルベールさんのお店!知ってるの?」


 やっとビンゴだ!と、深海は一度緩めた腕に再び力を込めてシュウを見上げた。
再びゼロ距離射程の衝撃を食らった方は、がったんと音を立ててカウンターにぶつかったが、どうやらシュウはその衝撃よりも深海が口にした名前のほうが衝撃的だったらしい。


「あー、お嬢ちゃん。念のために聞くが、ロルベールってのは、超ミニスカートで男なのにレースクィーンみたいな格好で恥じらいも無くそこらへんを闊歩してるロルベール・リス・ガレヴィーのことか?」


 シュウは恐る恐ると言った様子で深海に問いかけた。
出来れば否定してくれ、という願いを込めて。
 しかし、時に子供というものは時々無邪気であるが故に酷く残酷なものである。
深海はにっこり笑って即答した。


「シュウさんロルのこと良く知ってるねー!もしや仲良しこよし?!」


 シュウはおもむろに深海から眼を逸らした。
逸らした軌道そのままに、かくっと力が抜けて、とてもとても素敵に脱了してしまった。


「おや?シュウさんどうしたの?もしかして、超ミニスカートで男なのにレースクィーンみたいな格好で恥じらいも無くそこらへんを闊歩してるロルベール・リス・ガレヴィーって、シュウさんの恋人だったり?深海ちゃんと三角関係?」


 のんびりと成り行きを見守っていた沙里が、やはりのんびりと口を挟んだが、姪の言葉を叔父には届かなかったらしい。
 出来れば聞こえていても聞こえていなくても深海と沙里の両方とも肯定したくない言葉だが、まったくロルベールを知らないわけでもないし、店を知らないわけでもない。
 しかし、色々な意味において、『あの』ロルベールと深海を関わらせて良いものか。
しかも深海はこちら側に来て間もない。
 『あれ』が初接触者とは、幸か不幸かで言えば、多分間違いなく不幸ではないか。
だが、こちらの世界の詳細もロルベールの詳細も知らない深海には、そんな微妙な表情で視線を逸らし、ひっそりと汗をかいているシュウの様子など、微塵も察しなかったから。


「――沙里、連れて行ってやれ。」
「やったぁ!」


 結局、シュウは深海の期待に満ちてきらきらした目に負けた。
シュウの声に、深海は思わず両手を上げて喜び、ようやくシュウは何処にそんな力があるのか甚だ不明な細腕から逃れることが出来た。
 精神的衝撃か、それとも肋骨に甚大な被害があったのか、もしくは酸素が脳に充分いきわたらなかったのか。


「シュウさん、私はまだ良く『ロルのお店』とやらが分ってないんだけど…」
「そこの通りを200メートルくらい行って右に曲がった路地の四番目の通路の左の奥の階段を上がって橋を渡った先の水路の裏に続く道の脇にある壁の隙間を右に入って出た通りの向かい側にある家の庭を抜けて左側にある通路をまっすぐ行った最初の彼岸花の群生の脇にある滑り台的な何かを下まで降りたところに宿屋?があるだろう?そこだ。」
「え、あそこって宿屋だったの?私は古着屋?って聞いたようなきがするけど。っていうか、外から見たとき鋼鉄の処女(アイアンメイデン)っぽいのが出入り口を塞いでたような気がするんですが。」
「ああ、ロルの奴は何でも店に置くからな。多分間違いなく鋼鉄の処女(アイアンメイデン)だ。拷問道具も集めるのが好きらしいから。難点は場所を食うことだって言ってた。あと使わなくなったスタンプとか、ニホンのアニメキャラの服とか。」
「ニホンのコスプレまで売ってるの?拷問具と一緒に?それって結局何屋になるの?」
「さぁな。無難なところで万屋?か質屋?なんじゃないのか?」


 超ミニスカートで男なのにレースクィーンみたいな格好で恥じらいも無くそこらへんを闊歩してる人が経営しているらしい、コスプレやら拷問具やらスタンプやらを置いている、古着屋か質屋か万屋か良く分らないお店。
 ようやく目的地に近づいてきたことにはしゃいでいる深海にはどうやらあまり聞こえていないらしいが、そんなのん気な後ろ姿だから余計にそう思ったのかもしれない。


「シュウさんがちょっとお店を教えるの躊躇ったの分ったわ。」


 でも、ちょっとロルベールとやらの店が面白そうだな、と思ったのも、また本当だったりして。
 どこか複雑な表情で、将来嫁候補に上がるかも知れないクラスメイトを見やる叔父の横我をのんびり眺めながら、沙里はまたのんびり紅茶を啜った。