クーナティエンダ ゼッジフの魔法 01

貴婦人たちは着飾ってゼッジフの店に行く。目当ては、美味しい料理と噂話とゼッジフ。高貴な人のために設けられた2階席はさながら劇場のそれのようだ。赤いビロウド張りの椅子に優雅に腰掛けて、階下にひしめく下々の者たちを見下ろせば、優越の美酒に酔いしれることができる。

「今日のお勧めは?」
「トマトのステーキ鶏のとさか風と小麦のカクテル香草添えでございます。」
「ではそれを頂きましょう。」

本人たちは涼やかに取り澄ましているつもりでも、その鼻が口が瞳が、いつもより少し大きめに開いて驚きを出し入れし、頬を上気させているのを見れば、聞いたこともないような料理の名前に期待と興奮が入り混じって、すぐにでも皿に飛びかからんばかりにその最初の一口を渇望しているのが分かる。

「それと、ジジを呼んで頂戴。」
「かしこまりました。」

給仕が若い燕のように2階席を後にすると、それからそわそわとした噂話が2つと終わらないうちに、料理長ゼッジフと宝石のような料理が運ばれてきた。

ゼッジフは口上を述べ、一皿目の解説を始めた。
「奥様方は幸運でございます。本日の食材はめったに手に入るものではございません。この皿の上に乗っているのは、何を隠そう、かつて世界の心臓だった太陽の死骸なのでございます―――南の国では太陽が、夕日になる前に熟れてしまって、地上に落ちてくることがよくあるそうで、貧しい子どもたちは、日がな一日屋外で労働しながら、いつ太陽が落ちてきてもその両手で受け止めることができるように、常に空と太陽の様子に気をまわしているのでございます。そして幸運にも熟れた太陽をその手のうちにおさめることができた者は、駆けていって親方にこう叫ぶのです。『見て!この色と大きさ!強い香り!今までで一番上等な太陽の死骸だよ!ねぇ!いくらで買う?いくらで?』―――。」

いつの間にか瞳を閉じていた貴婦人たちは、うっとりと目を覚ますと、ナイフを握る華奢な指に力をこめて、最後のとどめを心臓型のそれに突き立てた。

「やわらかいわ」
「いいえ、硬いわ」
「血が出てきたわ、それともスープかしら」

そして恐る恐る口に運んだその瞬間、誰もかれもがその瞳から星屑をばらまいた。
「冷たいわ」
「ほんとう。太陽の死骸なのね」
「何かしら、複雑な味がするわ」
「トマト…?いいえ、イチジク…?いいえ…」
「ちょっとまって、肉の味がするわ!」
「ラム!チキン!鹿!ビーフ!」
「ああ、わかったわ!クジラなのね!クジラのスープなのね!」
「太陽の匂い!セシル叔母さまの別荘の匂いよ!」
「熱い!」突如一人の婦人が叫んだ。
「奥様、それは西国の香辛料でございます。」
「嘘よ!たった今太陽が生き返って私の喉の奥を焦がしてしまったのよ!」

数分後、テーブルは再び静寂に包まれた。今や誰もが、フォークとナイフさえも、次の料理を早く口内に放り込みたくてうずうずしていた。

ゼッジフは重々しく始めた。
「ここから西に馬車で3日ほど行ったところに、開けた、どこまでも続く丘陵地帯があって、秋になると、一面金色の穂で埋め尽くされるのです。その色は延べ150日分の太陽の光をすべて凝縮したもので、風がその優れた色合いを愛でて幾度も撫でさするものですから、そこで育った小麦の味はこの上なく甘く優しくなるのです。収穫祭より2週間早くそこを訪れたなら、美しい金色の毛並みを持つ巨大な獣の背中に人間がまるで蚤のように生活している様を見ることができるでしょう。さて、本日のレシピはその金色の獣に教わったものなのです。月の雫を一滴、人魚の鱗の粉末を少々、冬のイチゴの氷漬けも忘れてはなりません。さぁ、どうぞ、さめないうちに。ご婦人方。」

貴婦人の全員が、訓練されたされた軍隊のように一糸乱れぬ動きでスプーンをかまえた。

「それでは私めも仕事がありますので。」
ゼッジフは一礼すると、足の長いクリスタルグラスの海へ今まさに探索に出でんとする勇敢な探検隊を残して、喧騒の1階へと降りていった。

ゼッジフの魔法とは、つまりはそういうことだ。

「ゼッジフ!」
「ゼッジフ!」
ホールを横切れば、人々は食事を中断して、その奇跡の名前を呼ぶ。
―――ゼッジフ!ゼッジフ!ゼッジフ!ゼッジフ!
ゼッジフはミツバチのように全てのテーブルをまわり、二言三言話しては、笑いと感動と幾ばくかの驚きを置いてゆく。そして客たちは、ゼッジフが去った後、料理が何倍にも美味しくなっていることを発見し、こう口を揃えるのだ。

ゼッジフの魔法、ゼッジフの魔法…