棄てられない思い出

mudan tensai genkin desu -yuki

荷造りをするのは久しぶりのことである。
ジウは自室に積み重ねられた木箱の一つを覗き込み、その上に本を数冊詰め込んだ。
部屋の片隅で作業を手伝っていた弟が振り返る。
「姉さん、服ってみんな置いていくでいいんだよね」
「え? 置いていくの?」
「だろ。どうせ仕立て直しだし。家に置いておけば実家に帰ってきた時便利だ」
「……そうかもね」
女のジウよりもよほど所帯じみているシスイは、てきぱきと荷造りを進めていく。
彼は近くにあったものを一通り整然と箱詰めしてしまうと、次に飾り戸棚へ視線を移した。子供の頃から変わらず飾られている人形の数々を眺める。
「これ、置いてく?」
「駄目。持ってく」
「まじで?」
シスイは一番近くにあった人間を手に取った。
それは姉が幼い頃、母親に作ってもらったもので、彼の記憶が正しければ確かイルジェも同じものを持っていたはずだ。不憫臭漂う死相の人間を、彼は何ともいえない表情で見下ろす。
「……置いてきなよ」
「嫌」
「むしろ捨てれば」
「駄目だってば。いいから詰めてよ」
「だってこの人形、呪われてるようにしか見えないし」
姉は、ただ引越しをするわけではない。結婚して家を出て行くのだ。
一応祝い事なのだから、このように不吉な人形を持っていくのはどうかと思うのだが、ジウの決意は固そうである。シスイは長い月日でさすがにくたびれた不憫人形を、渋々箱に押し込んだ。
「向こうで捨てられても知らないからね」
「いいじゃない。お母さんが作ってくれたのに」
「母さんも何でこんなもの作ったんだ……」
今は口煩い教育係兼学者で知られる母も、若い頃はかなり無茶な人間だったらしい。
だからといって作るものまで無茶苦茶じゃなくてもいいのに、と息子は思ったが、今更どうにもならない問題であろう。彼は箱に人形を全て詰め込んでしまうと、蓋をし金具で止めていく。
「よし。じゃあこれを後で転移してもらえばいいか」
「うん。ありがとう」
もともと姉は派手なことを好まぬ性格だ。
必要なものは向こうで用意されているだろうし、大して多くない荷物をまとめてしまえば準備は終わる。
シスイは箱の蓋に一つ一つ内容物を書き込んでしまうと、それを丁寧に並べなおした。
その上で掃除をしていた姉を振り返ると、彼は「結婚おめでとう、姉さん」と笑ったのである。

後日ジウが嫁ぎ先で荷物を確かめると、毬草の鉢が混ざっていた。