広がる夢

mudan tensai genkin desu -yuki

人間誰しも夢はある。
あるよな? あっていいだろ。だから俺にも勿論ある!
その夢に向かって転職し、目下邁進している最中だ!
―――― だからこんなところで死にたくないんです。

「というわけで、念願の庭付きの家を買ったばっかで……」
冷たい石の廊下に正座して、こんこんと身の上を語る俺を、空中からそいつは見下ろしていた。
氷のような黒い目。やたらと綺麗な顔立ち。でも無表情で何考えてるのか分からないぞ。怖い。殺されそう。
浮いてる以外は普通の女の子に見えなくもないそいつは、ゴミでも見るようにじっと俺を見つめる。
俺はしどろもどろになりながらも助命嘆願を続けた。
にしても、ええい! さっきから足が冷えてそろそろ感覚ないぞ!
たまたま調査に出向かされた遺跡で、こんな人間と出会っちゃうとか不運すぎる!
魔法を排する国に堂々といる魔法士って時点で充分やばい気がするな……。
だって子供みたいに見えるけど、こいつさっき魔法で壁ぶちぬいてたぞ。絶対おかしい。
ちょうどその現場に出くわしてしまった俺は、反射的に逃げようとして、でも何か知らんけど走っても走っても進まないという怪奇現象に見舞われた挙句、結局ここでこう、正座してるわけです。
たーすけーてー。



浮いてる危険人物までの距離は、大体平均身長の男二人分って感じか?
短剣を投擲して……当てる自信はあるけど、万が一しとめ損ねたらやばい。
でもな、それ以上になー。…………年下の女の子だろ。
そんな子に短剣投げるってちょっと。仕事でもないし、仕事だったら断りたい感じ。
俺はそーっと女の子を見上げる。
うっ、冷たい目。怖い。殺されそう。
死にたくないなああああああ。



でも内心諦めながら俯いてると、その子は言ったんだよな。
「もういいですよ。他言無用で何処にでも行きなさい」って。
本当にいいのか、って思いながらそろそろと立ち上がって帰ろうとすると、女の子は空中に浮いたまま俺の方を見てた。
遺跡の長い通路をずーっと行った途中で振り返っても、まだ動かずそこにいた。
黒い目はやっぱり冷たい。
でもなぁ……
うーん……
それがよく見ると、ちょっとさみしそうだったんだよな。まるで人に捨てられて野良になった猫みたいに。



結局俺は何を血迷ったのか、逃げればいいのにその道を戻って、猫みたいに目を丸くしたあいつに声をかけて――――
黒猫を、拾った。



人間誰しも夢はある。
俺の夢は、自分の家を持って、そこでのんびり人並みの生活を送って、ああ、猫なんて飼えたらいいなーって。
……色々あったんだけど、今結局猫みたいな魔女と暮らしてる。
夢よりも嘘くさい現実だな。