終わらない時

mudan tensai genkin desu -yuki

腕の中で眠る小さな体は、偽りなく温かい。
娘の幼かった頃と似て頼りない体を、しかしその時とはまったく異なる感慨を以って、オスカーはそっと抱きなおした。美しい貌を無言で見下ろす。
夜に包みこまれた部屋。
窓の外から注ぐ月光が飛沫を放ち、蒼白く彼女の頬を濡らした。
まるで作り物にも見える横顔。だが、小さな肩は確かに一息ごとに上下している。
確かに在る命を見て、王は深く安堵した。彼女を抱く腕に力を込める。

四年前に死んだ王妃。彼女の死を知ってからの空白は、長かったようにも短かったようにも思える。
その途中で己の変質を知った彼は、だがそれでも今夜彼女が「戻ってくる」まで、その事実に確信を持てないでいた。
死しても永遠を生き続ける存在などありえない。
もしかしたら自分は、妻を喪った己への慰めとして、非現実的な妄想に捕らわれているのではないか。
その考えは、信じたいと思えば思うほど、心の何処かで彼を苛んだ。
二度と彼女に会えることはない―――― それこそが自然の在り様だと分かっていながら、本当にそうであるのなら自分がどうなるのか、彼は何も自信が持てずにいたのだ。

だから彼女が戻ってきた時、彼は心から安堵した。
たとえそれが、永遠に続く闘争の始まりを意味するのだとしても。
「ティナーシャ」
長い黒髪を梳く。闇に続く色を慈しむ。
人ならざるそれは、だが人であった頃と変わらぬ滑らかさを彼の指に伝えた。
オスカーは小さな体を隣に横たえると、その頭を撫でる。
深く眠る彼女は少し身じろぎしただけで、目を覚まさなかった。小さな手が彼の服の裾をぎゅっと掴んでいる。

何処までを、自分たちは旅するのだろう。
偶然か必然か訪れた変質。望んでいること、望まれていることは全ての呪具の破壊だ。
それがいつ終わるものなのか。その先に何が待っているのか。
彼は未だ、想像もつかない時の果てに思いを馳せる。



「いつまで俺たちは、変わらないでいられるんだろうな」
夜陰に消える述懐は祈りにも似て、二人の間に落ちた。
オスカーは少女の黒髪を一房指に絡めると、艶やかな闇に口付ける。
絶望よりも希望。後悔よりも悦び。
人を外れたものは魂よりもこの精神だ。
まるで度し難い、愚かな望みを捨てぬ心。
だがそれこそが人らしいと、彼女であれば許すだろうか。
王は苦い微笑を浮かべる。月光が作る影を抱いて目を閉じた。
永遠を手に入れる代わりに永久を強いられた―――― その変質を彼は喜んで受け入れる。
微かに聞こえる寝息。その安息を妨げるものはない。夢の中でも彼女は悲しまない。
ただ仄かな青光だけが窓から差し込み、静寂の檻を淡く照らしていた。