儚い関係

mudan tensai genkin desu -yuki

「ってわけでこれで出来上がりよ。永久ハゲ薬」
「へえ……」
小さな瓶を掲げるルクレツィアに、ティナーシャは冷ややかな目を向けた。
一見十三、四歳の少女に見える魔女は、テーブルに頬杖をついて小瓶を見上げる。
「で、それをどうするんですか?」
「決まってるじゃない。私を振ったあの腹立たしい男に盛ってやるんだから……!」
ルクレツィアは瓶を割りそうな程に握り締めながら、怒りに震えた。
彼女の同居人であるティナーシャは小さく溜息をついて指を鳴らす。
と、同時に跡形もなく小瓶が消え去るのを見て、ルクレツィアは額に青筋を立てた。
「何で邪魔するのよ!」
「邪魔するに決まってるじゃないですか! 魔女が何ひどい復讐しようとしてるんです!」
「あの男が一生女に縁がなくなるよう、全身の毛を抜いてやろうと思ったのよ!」
「もっと酷い!」
森の中の家は途端、ぎゃあぎゃあとした口論で満たされる。
しかしそれは彼女たちにとって大して珍しいことではない。むしろ恒例行事のようなものであった。

五人の魔女のうちの二人、ルクレツィアとティナーシャは、共に暮らすくらい親しい間柄ではあるのだが、その傾向は正反対に近い。
特にしばしば恋人を作り、長い年月男たちの間を渡り歩くルクレツィアに対し、ティナーシャは人間嫌いの純潔の魔法士であった。
この日も男と別れ、三ヶ月ぶりに家に帰ってきた友人を、ティナーシャは呆れ顔で見やる。
「大体しょっちゅう相手を変えてるのに、いちいち復讐しようとしないでくださいよ。迷惑な人ですね」
「そりゃね、綺麗さっぱり別れるならいいのよ? でもあの男、私より村の小娘の方がいいとか言い出して……」
「若さって私たちとは無縁のものですよね」
事実を突いた言葉にルクレツィアは歯軋りした。
十三歳の肉体を持ちながら既に六十四歳であるティナーシャは、ポットを手に取ると新しいお茶を自分のカップに注ぐ。
黒髪の魔女は一口温かいお茶を嚥下すると、心底不思議という顔で向かいのルクレツィアを見やった。
「そもそも貴女は相手を頻繁に変えすぎなんですよ。そんな変えてて愛着も何もないでしょうに」
「何言ってんの。楽しいのは長くてせいぜい二年よ。楽しくなくなったら次。その方が相手も気が新たになるでしょ」
「えええ………そういうものなんですか?」
ティナーシャがつい聞き返してしまったのは、彼女が本来であれば「生まれた時からの婚約者と一生を添い遂げる」人間であった為かもしれない。ルクレツィアは馬鹿を見る目で妹分を見返した。
「そういうものなの。楽しむ為に恋人になるんだから。楽しくないのにどうして一緒にいなきゃなんないの?」
力説されてもティナーシャは、そういったことについて経験がない為よく分からない。何かおかしいと思いつつも「はぁ、なるほど」と頷いて済ませた。
それから二人はしばらく茶菓子片手に雑談に興じていたが、お茶の切れ目にティナーシャはぽつりと呟く。
「私だったら相手は一人いれば充分だと思いますけどね……」
失言とも言える言葉に、ルクレツィアは途端に目を輝かせて食いついた。テーブルの上に乗り出してくる。
「え? 何? 男、見繕う気になった?」
「なってないなってない」
「ちょっと待ってなさいよ。あんたが気に入りそうな男探してきてあげるから」
「いらないって! しかも私、この外見だし!」
「それくらいの年の娘が好きって男もいるのよ」
「特殊嗜好者を紹介しようとするな!」
再び白熱する言い争い。
ティナーシャがこの時の発言の通り、ただ一人の夫を得て落ち着くのは、これより約三百六十年後のことである。