甘い味

mudan tensai genkin desu -yuki

親子とはやはり似るものなのだと、雫は思う。
血は争えない、という言葉があるが、その通りたとえ離れて暮らしていても似る部分はあるのだ。

彼女は人参を焼きこんだケーキを切り分けると、それを皿に乗せ主君の前へと呈す。
お茶を飲んでいたオルティアは、仕草こそ優美ではあったが、目は嬉々としてそれに手をつけた。一口目を嚥下すると、心底不思議そうにぼやく。
「これを嫌がるとは、味の分からぬ息子だ」
「レーン殿下は王様に似られたようですね」
隣国で暮らす女王の三人目の息子。彼は、父親に味覚が似て人参が大嫌いなのだ。
その為彼の教育係である雫は、いつも試行錯誤してレーンに人参を食べさせようとしているのだが、敵もさるもの、どれほど誤魔化してもどれほど甘く調理しても泣いて食べようとはしない。
もう諦めてしまおうか、という同情と、これ以上人参嫌いを広めてなるものか、という使命感の間で、彼女は最近揺れ動いていた。
オルティアは人参ケーキを黙々と口に運ぶ。
息子の話を聞いて渋くなっていた顔が、徐々にほころんでいくのはケーキの味が気に入ったからだろう。
雫は微笑してその様を見やった。が、ふとあることを思い出す。
「ああ、そういえば」
「何だ?」
「干し小魚を頂いたんで、甘い煮付けに」
「要らぬ」
「………………」
即答だった。最後まで言わせてもくれなかった。
雫はしばらく沈黙すると、再び口を開く。
「小魚を」
「要らぬ」
「小魚をお持ちしました!」
有無を言わせず言い切って、雫は包みから煮物を入れた箱を取り出す。
オルティアの美しい顔が子供のように歪んだ。女王は椅子の上で体を引く。
小さな陶器の器から小魚の煮付けが取り分けられる様―――― それを女王は戦々恐々の目で眺めた。その視線は雫に誰かを思い出させる。
「さ、陛下」
「要らぬというのに」
「骨は大事です! カルシウムを取られて下さい!」
皿を手に取り真っ直ぐオルティアに向かって差し出すと、女王は顔をそむけてフルフル首を横に振った。
―――― 非常に見覚えのある光景。
このまま続ければ、相手が涙目になることまで雫は分かっている。
彼女は一つ息をついて、告げた。
「陛下、レーン殿下とそっくりです」
「…………」

血は争えない、という言葉はどうやら本当らしい。
一緒に暮らしたこともない親子の類似性に、雫は頭を痛めつつも譲る気はない。いい笑顔で主君に告げた。
「是非、レーン殿下へお手本を示されて下さい」
「…………」
そのまま逃げ出したそうな顔をするオルティアと、鉄壁の笑顔の雫。
二人の決着がどうついたのかは、誰も知らない。