絡みつく黒

mudan tensai genkin desu -yuki

棒のように細い足は、膝までが海に浸かっている。
石と砂が混ざり合った浜辺。そこに遊びに来ている四人の親子は、いつも通りそれぞれの時間を過ごしていた。
靴を履いたまま海に入っていたジウは、右足をあげようとしておかしな事に気付く。
「え……?」
足が上がらない。それどころか動かせない。
彼女は怪訝に思って水中に目を凝らしてみた。白かったはずの靴が、何故か黒く見える。
靴の上から彼女の足を絡め取っている「何か」。
それが、帯状の海草であると気付いたジウは振り返った。少し後でザルを片手に何かを集めている弟を呼ぶ。
「シスイ」
「何?」
「動けないんだけど。助けて」
「喉と舌は動くみたいだね」
「訂正する。足が動かない」
先ほどまでであれば、靴を脱ぎ捨てればよかったのかもしれない。
だが今、黒い海草は、彼女の足首までをも巻き込み伸び始めていた。
ジウはザルを手に近づいてこようとするシスイを、自分の数歩手前で留める。
「待って。その辺りから不味そう」
「うん? ああ、何だこれ」
「何だろう」
よくは分からないが、このままでは海の彫像となってしまいそうだ。
ジウは何とか体をよじって左手をシスイへと伸ばした。彼は範囲外からその手を取ろうとする。
しかし、子供たちの手はあとちょっと長さが足りず、お互いを掴むことが出来ない。ジウは溜息をついた。
「困った。メアを―――― 」
彼女の言葉は、そこで短い叫び声へと変わった。
足を絡め取っていた黒い海草。それが、まるで波の引くように彼女の足ごと沖へと動き出したのだ。
「ちょっ……!」
「姉さん!」
態勢を崩したジウは尻餅をつく。顎が波に没し、口の中へと海水が飛び込んだ。
シスイが顔色を変えて姉の方へと向かう。
ささいなことから惨事へとなりかけた一瞬。
―――― だが、溺れる少女の手を父が掴んだ。
彼は腕に力を込めると、一息で娘の体を手元へと引き抜く。

海草はそのまま沖の方へと引いて行った。
ずぶぬれになったジウは、浜辺で本を読んでいたはずの父親を見上げる。
「お父さん、ありがとう……」
「気をつけなさい。怪我は?」
「多分してないと思う」
「ならいい」
冷静沈着というか、あまり感情の起伏の見られない父は、抱き上げていた娘をその場に下ろすと浜へと戻った。
その後姿を見送った子供たちは―――― 後で母親から「お父さん慌ててたのか、読んでた本を海の中に投げちゃったのよ」と聞き、お互いの顔を見合わせたのである。