明るい征服計画

mudan tensai genkin desu -yuki

「大陸征服とかしてみたいね」
「僕は手伝わないからな」
ファルサス東部にある離宮での昼下がり。長兄の発言にすかさず返したレーンは、ちらりと次兄の方を窺った。
長椅子で本を読んでいるイルジェは今の話が聞こえなかったのか、微動だにしていない。レーンは内心胸を撫で下ろす。

大国二国に分かれた四人の兄妹。
彼らは、子供である今でこそ共に時を過ごし遊ぶこともままあるが、その将来は単純ではあり得ない。
己の国を立って背負わねばならぬ兄たちは特に、状況によっては他国の肉親よりも、自国を優先させる決断をせねばならないのだ。
もとよりそのように育てられている兄―――― にもかかわらず酷い発言が多いセファスを、レーンは白い眼で見やる。
「しょうもない思いつきも大概にしろよな」
「征服が完了したら何しようかな。転移陣をあちこちに配備して、それで絵を描いてみようかな」
「兄上、僕の話聞いてないな」
どうせジウがいなくてつまらないのだろう。大陸征服などと言いつつ、セファスの双眸は何の意欲も浮かんでいなかった。
レーンは、窓辺によりかかりつつ外を眺めている長兄からそっと距離を取る。暇つぶしに巻き込まれて酷い目に遭わされてはかなわないと思ったのだ。

セファスはしかし、それに気付いたが弟を咎めようとはしなかった。代わりにイルジェへと声をかける。
「お前ならどうする? 大陸征服」
「興味ない。キスクの敵に回るというなら対処する」
「覇気がないね。同盟ならどうだい?」
「条件次第」
本を読みながらのイルジェは、兄の問いかけに要点のみ返答していく。
その答が面白いのか、セファスの表情は徐々に楽しげなものとなっていった。
扉間近にまで下がったレーンは二人の会話を戦々恐々と見守る。
「よし、なら僕が西半分をもらおう。東半分はお前にやる」
「北はいらない。南西だけでいい」
「欲がないね」
「北国は統治が面倒だ」
「それも醍醐味だよ。よし、まずガンドナから落とそうか」
どこまでが冗談なのか分からない交渉。
だが、少なくとも当人たちはそれなりに楽しそうなので、これはこれでいいのだろう。
レーンはそう無理矢理片付けると、巻き込まれる前に広間から逃走したのだった。