極彩色の悪夢

mudan tensai genkin desu -yuki

「見て楽しい」と「美味しそう」
―――― この二つはどちらもよい評価を意味する言葉ではあるが、その方向性はまったく異なる。
という当たり前のことを、エウドラは改めて確認する羽目になっていた。
目の前の原色盛り沢山なケーキを、彼女は恐怖の目で見やる。
「何、これ」
「おやつです」
即答がよりうさんくささを増していると思えるのは何故なのだろう。
給仕を務めるシスイは、堅牢な笑顔で年下の王女に笑いかけた。
「殿下が姫の為にお手をおかけになったのですよ。さ、どうぞ」
「いらないわよ! どう見ても食べられない色してるじゃない!」
「全て食べられます。食べられるものを使ってありますから」
そう言われても、問題のケーキは赤や黄色や緑や紫がふんだんに使われ、まるで子供の落書きをそのまま現実にしたかのようだった。
エウドラは色彩感覚がおかしくなりそうな食べ物を前に、その異常さを糾弾する。
「何なのこの色! 鮮やか過ぎるわ!」
「ああ、それは先日、僕が完成させた着色料を使ってあります」
「…………」
もう何処から何を言えばいいのか分からない。
数秒間絶句していたエウドラは、改めてケーキの側面の真緑部分を指差した。
「これ、何」
「ですから着色料です。最近、着色料研究に凝ってまして」
「赤は? どうやって作ってあるの?」
妙に美しい赤色は、化粧紅と同じものが使われているのだろうか。
九割の恐れと一割の好奇心をもって王女は尋ねる。
シスイは崩れぬ笑顔のまま首を左右に振った。
「いいえ、それは虫を原材料に……」
「いやああああああああああああああああああああ」
「小さな虫をこう、沢山すり潰してですね」
「黙れ! 黙りなさい!」
「あ、毒とかないですよ。無害です」
絶叫し部屋を逃げ出す王女と、彼女の後を皿を持って歩いていく笑顔の少年―――― それさえもキスク城では、ごく当たり前の光景である。

問題の着色料は王女命令によって封印された。