鮮やかな轟音

mudan tensai genkin desu -yuki

白く荘厳な姿を佇ませるファルサス城。
その上空には強い風が吹き荒れていた。長い黒髪をなびかせて空中に立つ少女は、怒りに満ちた双眸で眼下を睨む。
彼女の闇色の瞳には、城の中庭が鮮明に映し出されていた。
視界の中、彼女は空を見上げる少年を見つけると、唇を上げて笑う。
「今日という今日は、絶対泣かせてやる」
一瞬で膨大な構成を組み上げた魔女は、光の槍を現出させるとその穂先を少年へと向けた。
そして一息に打ち下ろす。―――― 轟く爆音は城内全域を揺るがした。
少女は勝ち誇った声を上げる。
「負けを認めなさいよ、ルイス!」
「嫌です」
背後からの声に、フィストリアは振り返るような真似をしなかった。
墜落するような速度で、彼女は焦げた中庭目指して急降下する。後から光弾が十五、彼女を追って宙を駆けた。
フィストリアは口の中で詠唱しながらそれらの光弾を一つずつ潰していく。
目前に迫る地面。彼女は直前で短距離転移をすると、ルイスの背後に回ろうとした。
だが彼もそれを察していたらしく、大きく宙を跳躍して距離を取る。
直後、消えていなかった光弾が中庭に突き刺さった。弾は既にあいていた大穴を更に広げ、草土の焼け焦げる匂いが漂う。
「泣いてお姉様に詫びなさいよ!」
「姉上の方が間違いを認めるべきですね」
「この小生意気!」
歴史上最強と言われる「青き月の魔女」の二人の子。
彼らの激しい魔法の応酬に城外の空気は荒れ果て、熱風と冷気がかわるがわる吹き付けた。
まるで異常気象が訪れたかのような様相。だがそれも、この城では比較的……いつものことである。






「ウィル様! 大変です!」
「あ、ライラ。どうしたの」
城の離れにある図書館で勉強をしていた少年は、血相変えて飛び込んできた幼馴染の少女に目を丸くした。
彼女は静寂が尊ばれる場所にもかかわらず靴を鳴らして走ってくると、両手をウィルの前の机に叩きつける。
「フィストリア様とルイス様が、今お庭で……」
「もしかして喧嘩とかしてるの?」
「はい」
「うわ」
嫌な予感が当たってしまったことにウィルは突っ伏したくなった。
この時間、確か王、王妃共に城にはいない。つまりそれは、彼の姉弟を止められる人間がいないということだ。
もっともそのどちらかがいたなら実力行使の喧嘩自体起きていなかっただろうが―――― ウィルはどうすべきか悩みつつ、だが自分の他に対応出来る人間もいないので立ち上がる。図書館の入り口に預けてあった何の変哲もない長剣を引き取り、彼は外へと出た。
途端に聞こえる魔法の炸裂音に、ウィルはげっそりした表情になる。
「止められるか? 止められないだろうな」
「頑張って下さい、ウィル様」
「セクタ取ってくるか……」
轟音が断続的に響く中を、二人の少年少女は走っていく。途中抉れた庭に、ウィルは溜息をついた。

はた迷惑な喧嘩が結果どうなったのか。
少なくとも王の子供三人ともが、父の命令で池掃除をさせられたことは確かである。