子供じみた口論

mudan tensai genkin desu -yuki

子供というものは少し会わないだけで瞬く間に成長する。
オルティアはそのことを知ってはいたが、本当の意味では分かってはいなかった。
隣国で育つ自分の第一子、三歳になったセファスを前に女王は沈黙する。
「かあさま、石はね、網に入れてしずめるといいんだよ」
「…………何の話だ?」
「ひもでむすんでも、すぐほどけるんだ。だからね」
まったく意味が掴めない息子の話。
それに苦心して付き合ったオルティアが理解したのは、息子が「足がかかると池に引きずりこまれる」という悪戯を庭にしかけていたということで―――― それを手伝った人間が彼の父親と知ると、彼女は血相を変えて王の執務室に怒鳴り込んだのだった。

「お前は一体何を教えている!」
「どうした、オルティア。急に煩いぞ」
「な、に、ゆ、え、子供に罠の仕掛け方を教えているのかと! 聞いているのだ!」
「あーあれか。役に立つだろ?」
「何のだ!」
激しく肩を前後に揺さぶられ、ラルスは声を上げて笑った。
もっともその笑声は余計オルティアの怒りを煽っただけで、揺さぶられる速度が一層上がる。
はたから見ると首がもげそうなほど揺られている王に、たまたま部屋に居合わせたハーヴは蒼ざめた。
だが、いい加減揺らされたところで、ラルスはオルティアの腰に手をやり持ち上げてしまう。
足が宙に浮いてしまった女王は力のやり場を失って手を止めた。
「お前は! お前はっ! 信用していたのだぞ! 渡さなければよかったわ!」
「でもセファスは俺がもらうって契約してたしなー。あ、もう一人欲しい」
「あのような育て方をしている奴に我が子を渡せるか!」
「ファルサスの王族なら多少は図太くないとな」
「図太い方向性から逸れておるわ!」
ぎゃあぎゃあと非難が飛び交う執務室から、巻き込まれることを恐れてハーヴは退出する。

結局二人の口論は「次に生まれた子の教育係に、オルティアも口を出していい」という条件の下、決着した。
翌年生まれた第三子、レーンは後に雫を教育係としてつけられ、比較的まともな人格に育つことになるのだが、結局長男についてはどうにもならなかったという……。