赤いおやつ

mudan tensai genkin desu -yuki

「アージェ! アージェ!」
閑散とした田舎町。街道沿いにあるその町で宿を取っていた少年は、買出しの帰り唐突に背後から自分の名を呼ばれ、頭の痛い思いを味わった。振り返ると走ってきた少女を窘める。
「また来たのか。人の名前を道端で連呼するなって」
「ご、ごめんなさい。でも追いつけなそうで……」
彼とは歩幅もまったく違う彼女は、見失ってしまうと思って焦ったのだろう。
少年は苦笑すると彼女と並んで歩き出した。手に持っていた皮袋を空中に投げては受け止める。
「アージェ、それ何?」
「おやつ。食べる?」
レアが躊躇いながらも頷くと、少年は袋の中から数粒、紅い木の実を取り出した。少女の掌にそれを乗せてやる。
「これ、どうやって食べるの?」
「そのまま齧る」
「齧って平気?」
「多分」
育ちのよいレアは、路上で歩きながら木の実を齧るということにいささかの抵抗があるようだった。
だが、今までアージェが彼女の損になることを言ったり、意地悪をしたことは一度もない。
少年への信用に後押しされたレアは、意を決したのか紅い一粒を口に入れる。
コリコリと小さな音が聞こえ――――

「あー、俺が悪かった」
「うっうっ」
「ほら、顔拭いて。水」
ボロボロと涙を零す少女に、アージェは白い布を手渡した。彼女がそれで顔を覆うと更に水のグラスも手渡す。
急に悲鳴を上げて泣き出したレアを、何とか宿屋まで連れてきたのはいいのだが、先ほどから背に刺さる視線が痛い。
アージェは宿の女将や他の客からの不審の視線をあえて無視して、レアの背中をさすった。
「レアが辛いもの苦手とは思わなかった。ごめん」
「か、からっ、からっ、からくて」
「うんうん」
からっからっとしか言えない少女の背をさすりつつ、アージェは彼女の手の中から引き取った木の実を見下ろす。
一拍おいてそれらを全て自分の口に放り込んだ少年は、全て躊躇いなく噛み砕いてしまうと、「美味しいのにな」と誰にも賛同されない感想を洩らしたのだった。