紫の泡

mudan tensai genkin desu -yuki

城の宿舎棟の厨房はその時間、誰の姿も見えなかった。
俺は部屋に備蓄してあった乾燥食材を手に、鍋やら何やらをひっくり返し始める。
いや、今日は休みで寝坊しちゃったんだが、変な時間に起きたから食堂がやってなかった。
だから何か簡単なものでも作ろうかと思ったんだけどな。さてどうしよう。

とりあえず米を鍋に投入。そして水を注ぐ。
米って普通惣菜って印象があるんだけど、エリクのところの嫁さんがよくこれを主食としてるんだよな。
でそれが結構美味しくて好き。だからちょっと食べたくなった。
かといって作り方聞いてきてるわけじゃ勿論ない。適当だ適当。俺、料理したことほとんどないからな。
でも食べられる材料で作ったなら普通食べられるものが出来るだろ?
というわけで調理続行だ。適当に切った野菜を四種くらいその上に放り込む。折角だから塩漬け肉を切ったやつも。
味付けは……どうするんだ?
とりあえず塩を追加。えいえい。
あとは、あとはまぁいいだろ。
俺は鍋を魔法板の上に置くと加熱しはじめる。
どれくらい待てばいいんだろうな。そのまま手持ち無沙汰で時々蓋を開けてはかき混ぜてみた。
何か沸騰してきたぞ。このまま待ってていいのか?
うーん。あの娘の出してくれたご飯って、赤い色だったり黄色かったりした気もするんだけどな。
今からでも何か足した方がいいか?
とりあえず辺りを見回すと、誰かが忘れてったのか赤いソースを詰めた瓶がある。うん、これ入れてみるか。

全部の材料を投入してから数十分。
見るからにやばい香りがする。怖くて蓋が開けられない。
開けられなくて怯んでたら、隙間から紫の泡が出てきた! こええええ!
なんていうか、これ以上熱したら不味そう! 魔法板から鍋をどけて、俺は距離を取ってみた。
このまま逃げたい。が、それはさすがに無責任だろう。
俺は泡が出なくなった頃を見計らって、恐る恐る蓋を開けてみる。

そこから先のことは、正直あまり思い出したくない。
とりあえずすごい匂いに死にそうになったとだけ記しておく。

とはいえ、これじゃいくらなんでも料理下手すぎる。
確かエリクって料理出来たよな。ちょっと基本的なのいくつか教えてもらおう。
―――― そう思って聞きに行った俺は、何故か五時間もエリクの講義を受けることになった。
何で料理を習いに行って魔法薬の基礎学んでるんだ、俺は……。
次は素直に本でも見ながら作ることにする。