金色の残光

mudan tensai genkin desu -yuki

金色のものを目にするとつい拾い上げてしまう。
それはオーティスがまだ若く、己の目標の為にお金が欲しくて仕方なかった頃の癖で、その目標が達成された後も残念ながら抜けなかったものだ。
宮廷にいた頃はよく親友に「みっともないから臣下の前ではやめなさい」と注意されていたことを思い出しつつ、彼は砂に埋もれた金細工を拾い上げた。
隣から少女がそれを覗き込む。
「何だったの?」
「ガラクタぽいな」
剥げかけた金の塗装が為されているそれは、小さな鐘の形をしていた。
子供のおもちゃか、装飾品の一部だろう。オーティスはそれを手の中で転がすと、上着の中に捻じ込む。
元は何なのか分からないが、このまま埋もれさせておくにはしのびない気がしたのだ。
二人は街道に戻り歩き始める。
ヴェオフォルミネは自分も何かを拾いたいのか、きょろきょろと周囲を見回しながら男の後をついてきた。
白金の髪は埃っぽい道を歩いているせいか、いつもの艶がなくなっている。
表情は乏しいが顔立ち自体は人形のように美しく、オーティスはそんな彼女を振り返って黙した。
蒼い瞳が何のてらいもなく男を見上げる。
「金色のものならなんでもいいの?」
「違う違う。金になるものを探してるんだよ。―――― いや、今はそんな探してないけど」
「お金」
「必要以上にはいらないぞ!」
この少女は念をさしておかないと何をするか分からない。
北東に向かい歩く二人は、ゆったりとした速度で次の町を目指していた。
疲れてきたのかふらふらと覚束なくなってきた少女の足取りに、オーティスは眉を顰める。
「おぶってやろうか」
「へいき」
「お前は色んな感覚が薄いからなあ。疲れても分からないんだろ。来い」
しゃがみこんで手招くと、ヴェオフォルミネは大人しくオーティスの背にしがみついた。
まるで子供のように軽い体。それは彼女が強いられてきた生活の不遇を思わせる。
自分の歩んできた道とはまったく異なる場所、異なる境遇で彼女が辿った悲劇に、彼は複雑な感傷を抱いた。
魔法士である自分たちの、そしてより多くの魔法士たちの行く末を思う。
「お前も……西で生まれてたらな」
「そうしたら、もっと早くあなたに会えた?」
「会えてたよ。国を作った後ならもっといい格好だってさせてやれた」
彼の作った魔法士の国。
青と白を基調とする王の魔法着を思い出し、オーティスは苦笑した。
ヴェオフォルミネの白金の髪と蒼い瞳に、あれらの色はよく似合っただろう。
王女のように白い裾を長く引いて、金鎖の額飾りや耳環をつけた彼女は、人々の視線を引き付けてやまなかったに違いない。

だがそれは、ありえない夢想でしかないだろう。
自国に帰る気のないオーティスは、ずり落ちかけた少女の体を揺すり上げる。
「お前は俺について来なくてもいいんだぞ。俺の紹介状を持ってトゥルダールに行けば、何の不自由もなく暮らすことが出来る」
「でも、そうしたらあなたがいない」
「大したことじゃないだろ」
「わたしには、だいじなこと」
彼女にしては珍しく頑なな返答に、オーティスはそれ以上何も言わなかった。
日が落ち始めた空。二人の影は街道に長く伸びる。
世界の全てが残光に照らされ輝く時間は、すぐそこに迫っていた。