賑やかな挙式

mudan tensai genkin desu -yuki

ファルサス城の敷地内にある大聖堂には、その日国内外の要人たち列席のもと、王族の結婚式が行われていた。
花嫁は国王のただ一人の妹レウティシア。彼女を娶る男はファルサス貴族の一領主である。
結婚する人間から考えても、列席する面々から考えても、本来厳かに進むはずの式。
だがその式は、残念なことにいくつかのおかしな点を持っていた。
宣誓が行われた壇上において見える光景に、招待客たちは我が目を疑う。
その視線の先には、結婚する二人から誓いを受けたばかりの王が、真面目な顔で王剣を抜いて立っていた。
―――― ただしその切っ先を新郎の首に突きつけて。

「というわけで、正式な口上は終わりだ。あー、やりたくない。殺したい」
十数秒前まではきちんと式を行っていた兄の、心底嫌そうな声にレウティシアはヴェールの下で蒼ざめた。
アカーシアの切っ先が夫の喉元に突きつけられている様を、彼女は恐る恐る見やる。
だがほんの半歩動けば絶命必至の状況にもかかわらず、当のアルノはにこやかな笑顔のままであった。
彼はいつもとまったく変わらぬ穏やかな眼差しで、自国の王を見上げる。
「そこをなんとか。ください、陛下」
「やりたくないやりたくない」
「幸せに出来るよう努力いたします」
「努力目標とかなー。頼りないよなー」
「まずは三ヵ月後に幸せ度を調査し報告にあがりますので」
ここに至って何故まだこんな交渉をしているのか。
一番聞きたかったのはレウティシアであるが、彼女は事態が悪化することを恐れて口を噤んだ。
これがファルサス国内だけの話であれば、実力行使の話し合いに発展しても構わないが、今は他国からの賓客も居合わせているのだ。
既に王剣の先がおかしな方向を向いているせいで、客たちもざわめている。せめて彼らが逃げ出すような事態にならぬよう収めなければならない。

レウティシアがどうすればいいのか気を揉み、ファルサス重臣たちが聖堂の隅で頭を抱える中、王と新郎のやり取りは続いていく。
「何か俺、ちょっと前に転びそうだなー。剣刺さっちゃうかもなー」
「痛そうなのでご容赦下さい。それに王剣で臣下を刺されてはいささか問題がございます」
「廃王がもう何十人も斬ってる。今更一人増えても変わらないだろ?」
「数で判断なさってはいけません。今は平和な治世であることを広く知らしめる為、王剣は安定した統治の象徴として……」
「ちょっとだけ刺していいか? いいよな」
「お待ち下さい陛下。ちょっとが大事になる可能性も高いのです」



宣誓直後に止まってしまった式。
それは、誰も何も言えぬまま不穏に停滞し続けた。
後日、この日の記録には「式は一部を除き滞りなく終了した」と書かれたという。