厄介な花束

mudan tensai genkin desu -yuki

花束を贈られた。
その花が高価な花瓶に飾られる様を、ジウはじっと見ていた。

準備に時間のかかる行事ほど、終わった時の疲労感は増す。
そのことを、今年十七歳になるジウは今までの経験から悟っていた。
ファルサス国王の誕生日に開かれる外交式典。
彼女も準備に携わったそれがようやく終わった夜、けれどジウは昨年までとは違う疲労感に襲われる羽目になっていた。
彼女は両手に抱えた花束越しに、笑顔のファルサス王太子を見上げる。
「殿下」
「誰に貰ったんだい? ジウ」
「人間から頂きました」
「名前と性別と所属国を報告しなさい」
逃げを許さない追及に、ジウは表情を変えないまでも、いささか旗色の悪さを感じ取っていた。
花束を腕に抱いたまま、彼女は正直に答える。
「ガンドナの伯爵家のご子息から頂きました。お名前は忘れました」
「ガンドナか。いい度胸だね」
「国ではなく人間から頂きました」
綱渡りをするような会話に、周囲にいる人間たちは冷や汗を浮かべながら聞き耳を立てている。
中でも王太子の弟であるレーンは、場合によっては兄を止めに入ろうと、至極疲れた表情で待機していた。
彼は近くを通りかかったもう一人の兄を見つけると、その腕を引っ張る。
「イルジェ、頼む、何とかして」
「何がどうした」
「ジウと兄上が……」
指された二人の様子を見て、隣国王太子の次兄は大方を察したらしい。弟に向かって適当に頷いた。
「放っておけ。ジウが自分で何とかするだろう」
「でも、ガンドナと戦争になったら」
「その時は俺が漁夫の利を狙うからちょうどいい。むしろ大歓迎だ」
「…………」
この件について次兄はまったく頼りにならない。というよりも敵である。
レーンがそう察する間にも、当人たちのやり取りは進んでいた。
「ジウ、とりあえずそれを寄越しなさい」
「構いませんが、どうされるのですか」
「飾る。この日の怒りを忘れぬよう劣化防止をかけて飾っておく」
「そうですか」
あっさりと花束を手放した少女に、セファスは笑顔を向ける。
その本性を知らぬ娘であれば、一目で熱が上がりそうな美しい笑みを、ジウは無感動に見上げた。
まるで剣のように二、三度花束を振った王太子は、皮肉げな目になると幼馴染の少女に問う。
「ジウ、正直に言いなさい。その男と僕、どちらがいい男だった?」
「判断要素が曖昧です」
「お前ならどちらについて行く?」
言い直された問いに、ジウは小首を傾げる。
だがすぐに彼女は姿勢を戻すと「主君としてならば、殿下に」と答えたのだった。

ひとまずは回避された嵐に、周囲の者は胸を撫で下ろした。
だが宮廷の廊下に飾られた花束は、しばらくその前を通る者の心胆を冷やしめてやまなかったのである。