子供の頃の思い出

mudan tensai genkin desu -yuki

広い部屋にはおもちゃが散乱している。
抑えた色味のものばかりであるが、どれも高価なそれらは部屋の主である幼児のものだった。
母親に連れられ宮廷を訪れたジウは、同い年である彼を前に頭を下げる。
「こんにちは」
「ん」
イルジェはジウの頭をぽんぽんと叩いた。
彼ら二人は同じ年の生まれではあるが、ジウの方が半年以上早く生まれている。
その為彼女の方が「お姉さん」に見える時も多々あるのだが、彼ら二人の間において主となるのはいつもイルジェだった。

幼い王太子は小さな木の箱を積み上げることに夢中らしい。
ジウはしばらくその手伝いをしていたが、箱の塔が高くなり複数人での作業が難しくなると、イルジェの傍を離れた。白い紙を持ってきておもむろに絵を描き始める。
子供の描く絵は、得てして意味が分からない。
ジウもその多分に洩れず、奇妙な物体がまぜこぜに入り組んだ絵を描き始めた。
しばらくするとイルジェがやって来てその絵を覗き込む。ジウは床に寝そべったまま顔を上げた。
「でんか」
「できたか?」
「できました」
「はる。よこせ」
ジウが出来上がった絵を手渡すと、イルジェはその絵を部屋の壁に張った。
「どんどんかけ」との命令に、ジウは一生懸命謎の絵を生産していく。王太子は黙々とそれらの絵で壁を埋め尽くしていった。

止めたくとも止められない分担作業に、部屋が変貌していくのを目の当たりにした女官たちは、慄きつつもその結末を見守った。
やがてしばらくの後、ジウの母親がやって来る。
「失礼致します、殿下。ジウは……ってうわっ!」
三面に渡って幼児絵が張り巡らされた広い部屋。
奇怪な生物が無数に壁をのたくっていると見えなくもない光景に、母親は立ちすくむ。その足下にジウが「おかあさん」と駆け寄った。
「ジ、ジウ、これは……」
「わたしがかいたの」
「そ、そう。殿下は貼ってもいいって仰ったの?」
「ぼくがはった」
こう言われては臣下たちには何も言うことが出来ない。
ジウの母親は顔を引き攣らせつつも「ありがとうございます」と頭を下げた。

子供のすることであるのだし、本人たちは楽しそうだから、と放っておかれた壁は、その後しばらくジウが遊びに行く度に絵が追加されることとなった。
最終的には壁が見えなくなるくらいの有様になった絵は―――― しかし後年、その話を聞いたシスイに「それだけ描いても姉さんは絵が上手くならなかったんだね」と、ばっさり切られたという。