恐れる異邦人

mudan tensai genkin desu -yuki

「王様が王様ゲームをやるとはこれ如何に……」
がっくりと項垂れた雫の呟きは、張り切っている当の本人には聞こえないようだった。
適当な数の椅子を円陣に並べるラルスは、やって来たハーヴを捕まえ「十数人連れて来い」と命じる。

まったく違う世界で違う生活を送ってきた元異世界人、雫。
その上司である王は、彼女から聞き出す異世界の遊びや慣習が楽しくて仕方ないらしい。
この日も仕事に忙しく渋る雫から、誘導尋問の形である遊びを聞き出し、ラルスは弾んで実行に移ろうとしていた。
たまたま休みで捕まったらしい文官や武官、魔法士たちが椅子に座らされる中、雫はさりげなく王の背後に移動する。椅子の数と連れてこられた人数を見て、これなら不参加でもいけそうだと思ったのだ。
同様に籤製作係で参加を免れたハーヴが、封筒の中に紙籤を入れてくると、一同はこれが何なのか首を傾げつつ一枚一枚引いていった。
全員に籤が行き渡ると、ラルスが楽しそうに声を上げる。
「よし、王は誰だー?」
参加している全員が「あなたですよ」と言いたかったに違いない。
だが幸い誰もが「これは何かの遊びだ」と理解している。
皆が皆、顔を見合わせお互いを窺う中、魔法士の一人が恐る恐る手を挙げた。持っていた籤を示す。
「こ、これのことでしょうか」
「そうだ、それだ。じゃあお前、番号を指定して何か命令しろ。城の外周百周走るとか」
「王様、それはさすがに」
何だかもうグダグダである。
元のゲームの知識を持っている雫はそう思ったが、王の命令とあって他の人間は素直に従った。
二重の王様ゲームとも言える現状。籤を当てた魔法士は「で、では六番が城の外周を五周で……」と指定する。
そもそも最初のラルスの例が悪かったと、雫は気付いたが、時既に遅し。
一同の間でこのゲームは「籤に負けたものが肉体的責苦を受ける」ものと認識されてしまった。
腹筋や走り込み、重量上げなど武官以外には拷問にしか思えない命令が続いていく。



これは放置していたら不味いかもしれない―――― そう雫が思ったのは、回が進んだにもかかわらずまだラルスが王を引き当てていないと気付いた時のことだ。
何かを命令したくてうずうずしている王が、いざ本当に王となったら死人が出かねない。
既に今までの命令で、椅子の上で半死になっている者もいるのだ。
雫は割り込む隙を見計らいつつ、新たな籤の行方を見守った。
「あ! あたったぞ!」
嬉しそうな王の声。室内に激しい緊張が走る。
椅子に座る何人かが死を覚悟したその時、雫は口を開いた。
「王様、待って下さい。このゲームはもっときわどい命令をして、参加者の反応を楽しむゲームなんですよ」
「きわどい? ドラゴンを狩って来いとかか?」
「路線が違います」
本来ならば雫のいう「きわどさ」も問題なのだろうが、死人が出るよりはましである。
皆、大人なのだし適当に切り抜けて欲しい。
そう思いつつ、雫は説明した。
「もっとこう、適当に二人選んで抱き合わせたりするんですよ。同性同士になったりすると笑いも取れます」
「それの何が面白いんだ」
「走り込みさせるって普段の王様と変わらないじゃないですか」
ラルスは雫からの訂正に、納得はしないまでも一分の理を感じたらしい。
整った眉を軽く上げ一同を見回すと―――― おもむろに命令した。
「なら、二番と十番、結婚しろ」
「ええええええええええええ!?」
傾向はあっているが、突きぬけている。
驚愕の叫びを上げた雫がラルスを止めようとした時、一同の中から二人が立ち上がった。
二人とも雫にとって既知の人間、片方はエリクの友人の武官で、もう片方はユーラだ。
ちょうどよく異性同士になった二人は、頭痛がしていそうな表情で瞬間お互いの顔を見合わせると……しかし王に向かって跪く。
「では陛下に証人をお願いしてもよろしいでしょうか」
「いいぞー。今、証明書書いてやる」
「本当に結婚しちゃうの!?」
もう何が何だか分からない。
少なくとも二人がもともと恋人同士などではなかったことは、ユーラの友人である雫には明らかだ。
あまりのことに眩暈がしそうな雫を前に、ラルスはてきぱきと手続きしていく。

この遊びを機に、二人は本当に結婚してしまった。
本人たち曰く「まぁいいか。陛下のご命令だし」ということらしい。
「この日ほど王制に恐怖した日はない」と、後に雫は語ったが、エリクなどに言わせると「他国では割と普通」ということである。
問題のゲームは雫から話を伝え聞いたレウティシアによって「やってはいけない遊び」として禁じられた。