抱え込んだ首

mudan tensai genkin desu -yuki

四大国の一つであるガンドナ。大陸の中でも比較的長い歴史を持つこの国は現在、魔法具研究に力を入れている。
その為城の廊下を、生首を抱えた女が歩いていても、見咎められることはない。
ただ行過ぎる人間たちが「ああ、またか……」という目で見てくるだけだ。好奇心が災いする一部の例外を除いては。
「何なのそれ」
「首です」
「…………」
いつも通り出仕し、顔見知りの女がいたから声をかけたゼノは、その答を聞いて激しく脱力した。サイラの抱えている生首を指差す。
「で、どんな生物の首?」
「人間です」
「人間に見えねえ……」
思わず天井を仰ぐ彼に、女は首をかしげた。

魔法具技師であるサイラは、魔法具の開発や改良に関しては飛び抜けた能力を持っている。
だが人間何かしら欠点があるというもので、彼女が作る魔法具の造形は、どれも「駄目」なのだ。
それも単なる下手という度合いを行過ぎている。もう何だか分からない。ものによっては禍々しくさえ見える。
そういう訳で、貴族たちなどはあまり彼女の作るものを評価していなかったが、何事も能力で判断するゼノは彼らの中にあって、サイラを高く評価していた。勿論その評価は造形以外に関してであるが。

「で、その生首をどうするつもりなんだよ」
「殿下の影武者を作ってみようと思っております」
「それ殿下なのか!?」
何故か尖っている頭頂部。髪の毛はあるように見えない。それは眉毛も同じだった。
妙にのっぺりした三角頭の側面には、目と思しき穴が二つ開いている。
―――― これが目だと分かる辺り、前回の「子供正座人形」よりまだましだ。
問題は口も同じような穴であり、目を合わせて丸穴の三角形が実に異様な空気を放っていることである。
あまり見ていては夢に出てきそうな生首から目を逸らし、ゼノは額の汗を拭った。
「いや、それ役に立たないんじゃないか?」
「そうでしょうか。魔法生物研究の一環として、現在再現し得る全ての技術を使っているのですが」
「造作が再現出来ていないのが問題だな……殿下あれで男前だし」
「もう少し目を横に広げてみましょうか」
「そういうちっさな問題か?」
これはもう、粘土をこねるように一度塊に戻してから作り直した方がいいくらいである。
間違っても「殿下の生首です」などと他の人間に言ってはいけない。不敬罪直行だ。
ゼノは優秀な魔法具技師の将来を慮って、そう助言しようとした。
その時、生首の口が動く。
「私の顔に何かついていますか? ゼノ」
「で、殿下……の声!?」
口の動きは芋虫を咀嚼するようなものであったが、柔らかい声はまさにそのものだった。
驚くゼノに、サイラは力強く頷く。
「という風に声もそっくりです」
「声以外似てねえよ」

サイラの作るものは、技術的には凄いのだが、彼女の意図した通りの使い道がされることはまずない。
この生首もその為、ゼノによって「王太子がいない時、紗幕の向こうから命令出来る魔法具」として有効利用されることとなった。
ちなみにその間、城内には「全力疾走する首なしの泥人形」の怪談が広まっていったが、それについては彼は何も言わなかったという。