響く崩落

mudan tensai genkin desu -yuki

「見えるか?」
「見える」
空中に浮かぶ二人。四つの眼は真下に広がる森、更に木々の切れ目から窺える岩肌を捉えていた。
オーティスは隣にいる少女に向かって、ある一点を指してみせる。
「あそこに出入り口が一つ、反対側にもう一つだ。俺たちはそれぞれ分かれて中にいる奴らを挟撃する」
「分かった」
短い返答に彼が頷きかけた時、少女の姿はその場から掻き消えた。
オーティスは彼女が既に真下へと転移したと分かって、しまった、という顔になる。
「だから最後まで聞けっつってんだろ、ヴェオフォルミネ!」
もう何度目かも分からぬ叫びを残して、男の姿も空から消える。
次の瞬間森奥にある野盗の根城には、魔法の爆発音が轟いたのだった。

入り口付近にて見張りをしていた男は、突然目の前に一人の少女が現れたことにより目を丸くしてしまった。
白金の髪に青い瞳。まるで人形のように非現実めいた無表情は、美しくはあったがあるべき温度が感じられなかった。
あまりのことに男が呆気に取られる間、ヴェオフォルミネは右手を彼の方へと差し伸べる。
不可視の構成。
網状に広がるそれらは自然の石壁へと到達し―――― 唐突に男の四方は砕け散った。
大きな爆発音を立て崩落する入り口を、少女は満足げな空気を湛えて眺める。
「あとは、追いたてるだけ」
生き埋めにしてしまった男を気にするわけでもなく、ヴェオフォルミネは崩落した先へと転移した。

「何だ!? 襲撃か?」
突然の断続的な爆発音に内部の部屋で酒を飲んでいた男たちは立ち上がった。
そこへ一人の男が駆け込んでくる。爆発の余波を浴びたのか、顔から薄く血を流している若い男は掠れた声で現状を伝えた。
「おかしな魔法士の女が……」
「魔法士? しかも女? そんな相手に何やってる」
「で、ですが、まったく近づけませんで」
話を聞いた男たちの顔が、汚らしいものを見たかのように歪む。
「魔法士」という異能者たちを下に見る態度。それは大陸東部においてはいまだ蔓延る偏見の一つだ。
男たちはおのおの腰を浮かせ剣を取った。一つだけの扉に殺到しようとした時、背後から嘲笑の声がかかる。
「そうやってお前らが魔法士を差別するからなあ…………あいつみたいな奴が生まれたんだよ」
「っ、何者だ!」
いつの間にか部屋の奥の壁によりかかっていた男。上から下まで繋がる青の衣を白い腰紐で緩く止めた彼は笑った。
「誰だろうな。誰でもいいよな。どうせお前らを待っている未来は処刑だ」
伸ばされた手に構成が灯る。
それは、一斉に抜かれた剣の刃全てを何の前触れもなく砕ききった。
唖然とする男たちを前にオーティスは剣呑な笑みを見せる。
「ここで生き埋めになる方と役人に突き出される方、好きな結末を選べよ」
無造作に腰紐の飾りをもてあそぶ左手。そこには銀で作られた指輪が三つ嵌められていた。
―――― その指輪の一つが遥か西の国においては「王」を意味すると、彼らは知らない。



自然の洞窟を更に削って作られた根城は、今は見る影もなく崩落した石であちこちが埋まっていた。
細かく転移を繰り返しながら先へと進む少女の首を、しかし後ろから伸びてきた男の手が掴む。
「やりすぎだ、ヴェオフォルミネ」
「オーティス。どうして後ろにいたの?」
「お前が前から近づいてくる人間全員を吹っ飛ばしてたからだよ!」

近隣の村々を荒らしていた野盗たちは、こうして旅人二人によって役人に突き出され、彼らは僅かな報酬を得た。
その報酬で更に旅を続ける魔法士二人は、今日も何処かで騒ぎを起こしているのかもしれない。