尽きた気力

mudan tensai genkin desu -yuki

常に何かしらの懸案に、迷惑なほど深入りしているキスク王太子イルジェ。
彼の毎日は公私両方の理由で多忙であり、空白の時間など存在しない。
しないはずなのだが、たまたまその日、彼は取り掛かっていた作業を中断させ、束の間の空白を味わうことになっていた。
図書室の机にて調べ物をしてた彼は、次の本が手の届く場所に積まれていないのを見て、物足りなそうな顔になる。
お茶を淹れて来たジウは、その空白に気付いて声をかけた。
「弟が失礼しました」
「誰にでも具合の悪い時はある」
「自業自得なのですが」
普段イルジェについて資料集めなどを行っているシスイが、今日は体調不良で休んでいる。
だからこそ王太子の作業は中断されてしまったのだが、体調不良の理由は実にしょうもない。家で独自に薬草を調合していて、誤って爆発させてしまったのである。
幸い爆発によって怪我を負ったわけではないが、その際に発生した怪しい煙を吸い込んで熱を出してしまった。
原因不明の煙の為、シスイはどの魔法薬が効くのか分からず寝込んだままである―――― というものが、今回の一件の顛末である。
イルジェは手元でペンをくるくると回した。
「それで、状態はどうなんだ?」
「命に別状はないようです。煙が抜け切れば熱は下がると」
「ならいい」
イルジェは既に書き上げた草稿を、手持ち無沙汰げに読み返し始める。
普段であればシスイがそれを引き取って清書し注釈を整備するのだが、今はまだ走り書きと似たり寄ったりの状態だ。
このまま三日も経てば、自分でも何を書いたか分からなくなりそうなそれを、イルジェは仕方なく自分で清書し始める。

要点を押さえての清書は、お茶のカップが空になる頃には終わっていた。
再び手持ち無沙汰になってしまったイルジェは、気の抜けた様子で天井を見上げる。
「……暇だな」
「お休みになっては如何でしょう」
忙しくしていることが好きな王太子は、幼馴染に言われて釈然としない顔で頬杖をつく。
自ら適当に選んできた本はいまいち面白くない。ジウの作るおやつは完璧すぎて付け入る隙がない。
どれもあと一歩が退屈なのだ。イルジェは読みかけの本を投げ出すと、椅子に座ったままで昼寝を始める。



たっぷり丸三日ほど退屈を味わった王太子は、シスイが復調して宮廷に戻ってくると、諸手を上げて大喜びした。
その日からイルジェは元の生活を取り戻し―――― 代わりにエウドラには、もとの悲惨なおやつに悩まされる日々が再び訪れたのである。