灼熱の有効利用

mudan tensai genkin desu -yuki

「暑い……」
降り注ぐ日光。
雫は長袖の腕をかざし太陽を仰ぐ。
魔法大国と呼ばれるファルサス。その城都は今日も、うだるような熱気に見舞われていた。
王に挨拶がてら久しぶりにワノープの町から出てきた雫は、滲んでくる汗をハンカチで拭う。
このうんざりするような陽気も、ずっと住んでいれば次第に慣れてくるのだが、普段涼しい場所で暮らしていると余計に堪える。
雫は初めてこの城都を訪れた時と同じく、げっそりした表情で城の回廊を歩いていた。
隣を行くエリクが、妻の黒茶の後頭部を見下ろす。
「大丈夫?」
「……黒い髪じゃなきゃよかったです」
「そんな凄い違いがあるとは思わないけど」
「あついー」
声に出してみても改善されないものは改善されない。
雫は朦朧とした意識を抱え、直射日光の強襲する中庭を見回した。
剥き出しになった土部分はからからと乾いており、草も気のせいか少し萎れて見える。
白けた石像はヒビが入りそうな程に熱されて、触れれば火傷してしまいそうだった。
しばらくそんな景色を見ていた雫は、ぽつりと呟く。
「何かこの熱気を有効利用したいですね」
「なるほど?」
「たとえば……あー……なんだろ。鉄板で目玉焼きを焼くとか」
頭が上手く回っていない雫はそんな案を出してみたが、すかさずエリクに「普通に焼いたほうが早いよ」と言われてしまった。
彼女は顎に指をかけ考える。
「も、ものをあっためるとか」
「うん」
「温泉とか」
「うん?」
もう何だかよく分からない。
エリクは最後に「とりあえずやってみれば?」と言い―――― 雫は結局、第一案としてあるものを作ってみたのだった。



元の世界にあって、こちらの世界にはない物。
あれば便利なのにと雫が思うものは多々あるが、その中の一つが電子レンジである。
食べたい時にすぐ食物を温められる。これは、弁当を食べる人間からすると非常にありがたい機能だ。
ならばこの機能を熱気で代用できないだろうか。
そう考えた雫はそのままの足で厨房を訪ねると、小さな弁当を作る。城に残って研究をするというエリクに弁当を渡し、日のあたる場所に置くよう頼んだ。そして彼女は一足先にワノープへと戻る。
夜になって帰ってきた夫は、雫の「どうでした?」という問いに頷いた。
「うん。異臭がしてた」
「あああああああああああ、しまったああああああああああ」
高校時代など毎日娘たちの弁当を作っていた雫の母親なら「あんた、もうちょっと考えなさいよ」と言ったに違いない。夏場の弁当は、とかく気を使わねばならぬものなのだ。
それをすっかり失念していた雫は青い顔になる。
「で、そのお弁当は」
「食べたよ。少し変わった味だけど美味しかった」
「捨てて下さい……」

暑さで弁当は腐ってしまったが、最も腐っていたのは雫の思考だったのかもしれない。
彼女は大きく項垂れ謝罪すると、夫に出す薬を探す為、居間へと戻ったのだった。