初めての話

mudan tensai genkin desu -yuki

初めてお互い引き合わされた時、彼らは自分の名を名乗ることさえ覚束ない子供であった。
将来の王と、彼を支えることを期待された子供。
彼らは共に育てられ、その一生涯を通じ深い信頼関係を抱くことになる。

城の庭に植えられた丸い葉を持つ大樹。
四方に伸びるその枝には、青く硬い果実がたわわに実っていた。
あと二週間もすれば色づいて枝がしなってくるであろう実を、二人の子供は見上げて指差す。
「よし、あれをとろう」
「……むりだとおもう」
木で作られた剣を上げて、意気揚々と宣言するオスカーに、ラザルは難しそうな顔になった。
実際一番低い場所にある実まで、二人の身長を足しても到底足りそうにない。
これは大人に頼まなければ不可能だろう。そうラザルが言おうと思っているうちに、オスカーは木の幹に飛びつくとそれをよじ登り始めた。ラザルは慌ててその後を追う。
「オスカー、待って!」
「はやく来い、ラザル」
言う間にもオスカーは木登りをやめない。
みるみる開いていく差にラザルは、置いていかれるという恐怖と、友達が危ないという恐怖の両方を抱いた。自分も慌てて木の幹に飛びつく。
だが、体を動かすことがあまり得意ではないラザルは、猿のような速度で枝まで到達してしまったオスカーに追いつくことは出来なそうだった。
彼は友人が落ちないかとはらはらしながら、頭上を見やる。
「ラザル、落とすからよけて、ひろえよ」
「あぶないよ」
「へいきへいき」
無鉄砲なオスカーは、軽い返事と共に手近な実を落とし始める。
ラザルはそれを脳天で受け止めないようあわあわと走り回りつつ、一つ一つを拾い上げ、一箇所に集めていった。
それが一山になったところで、彼は再度声をあげる。
「おりてきなよ、オスカー」
「まだあるし」
ちっとも忠告を聞いてくれない友達に、ラザルは心配そうな目を向けた。
この城において、王の子であるオスカーを親以外で呼び捨てる者はラザルだけである。
本来ならば罰されてもおかしくない呼び方。だがそれは、特例として大人たちから微笑ましく見守られていた。
その理由の一つには、ラザルが初めてはっきりと呼んだ人の名が、父でも母でもなく王太子のものであったという笑い話が一役買っているのであるが。
「おりてきなよ」
同じ言葉の繰り返し。
懇願にも聞こえるそれに、オスカーはようやく枝の中から顔を出す。
彼は青い実を抱えたまま困っている友達を見て、悪戯っぽい笑顔になった。
「じゃあとびおりる」
「まって、あぶないよ!」
「いくぞー!」
宣言通り身を躍らせた子供。
その体を、受け止めなければと思ったのはラザルが心配性であるがゆえだ。
彼は抱えていた青い実を全部投げ捨てるとその場を駆け出す。

結論から言うならば―――― 受け止めようとしない方が、二人とも無事で済んだだろう。
地上近くで衝突した子供二人は、お互い衝撃に目を回して草の上に転がった。
その様子をたまたま見とめた女官が叫んで人を呼び、治癒班の魔法士が駆けつけてくる。

やがては人を逸脱する王と、終生彼を支えた文官。
彼らの人生を語る長い記述は、このようにささやかな物語で始まっているのだ。