震えるお仕置き

mudan tensai genkin desu -yuki

寒い。とっても寒い。それは俺が裸だからなんだけど。
裸で正座させられている。意味がわかんない。
でもこれくらいの意味不明は俺にとって日常茶飯事。
つまり、お仕置きの最中だってことだ!

「なるほど。つまり誘拐された伯爵自身が黒幕であったと、お前の言い分はそういう訳か」
「左様でございます」
暴力王女を前に俺は頭を下げる。裸が寒いから縮こまったわけでは決してない! いや、寒いけどな。
くっそう! お前のせいだ、伯爵! 狂言誘拐とか阿呆なことしくさって!
つっても文句言いたい本人は既に死んでるんですが。死人に口なし。悪い意味で。
王女は冷たい目で俺を見下ろすと、椅子に座ったまま足を組んだ。
「だがそれも、お前がそう言っているだけだ。伯爵は死に、証拠もない」
「……左様で」
そうなんだよなあああああ! もう本当ついてない! 誰か助けて!

事の起こりは三日前。城都に住む伯爵が何者かに誘拐され、すんごい身代金が要求された。
されたんだけど、実はそれ伯爵自身の仕業だったんだよ。
伯爵はちょうど代がわりしたばっかりで、どうやら相続に絡む税を城に納めたくないからってのが理由だったらしい。
身代金として盗られた振りして自分の懐に入れるつもりだったんだな。
で、俺は殿下から直接命令されて、ひそかに単独で伯爵を救出しようと動いてたんだけど、乗り込んだ先でその事実を知って伯爵と口論になった。
そこからなんだかんだあって、自棄になった伯爵が「お前も死ねー」とか言って隠れ家に火を放って、俺だけ逃げ出した訳。
……うん、意味わからん。

暴力王女は人形のような無表情で俺を見下ろしてる。
そうだよな。証明出来ないよな。大体俺が動いてたこと自体、犯人にばれないよう極秘だったわけだし。
んでもって伯爵が監禁された屋敷が燃えて、俺だけが助かったって……無茶苦茶怪しい! こりゃ駄目かも!
死ぬのはやだなー。死刑だったら脱走しようかなー。
そんなことを考えながら正座していると、暴力王女は不意に立ち上がった。近くにあった桶から柄杓で水を汲みだし、俺の頭の上からかける。
うわーい。これくらいのお仕置きは序の口だな!
「お前は要領が悪い」
「申し訳ありません」
「お前がその口で弁明しても、信じる貴族はいないだろう」
「仰るとおりで……」
大体そんな審問の場引き出されたら俺、挙動不審になっちゃうしな! めちゃ犯人ぽい!

やり取りの間にも俺の頭からは水がどぼどぼ注がれてる。うう、寒い。寒いよー!
しかし大きな桶が空っぽになる頃、ようやく殿下は柄杓を置いてくれた。震えてる俺を見て溜息をつく。
「しかし、お前以外では伯爵の真実を暴くことは出来なかっただろう。―――― よくやった」
「は、はい?」
それだけを言い捨てて、殿下は部屋を出て行く。
う、これってお仕置き終了なのか? お咎めなしなのか?
動いていいのか分からずそのまま正座してると、ヴァイロがやってきて笑った。
「やあ、お疲れ。じゃあそのままの格好で城内練り歩いて帰っていいよ」
「何だそれ!?」
「無実の証拠がないからね。それくらい『君は罰された』って姿をみんなに見せないと、いくら殿下でも庇いきれないよ」
「…………」

暴力王女はいつも俺が失敗するとすんごいお仕置きを加えてきて、それは城のみんなが知っていることで――――
つまり、「いつも通り」。でも「いつもより怒られた」って姿をみんなが知れば、自然俺は無実だと思われるんだろうな。
俺に優しくない「あの」イリス殿下が赦すんだから。そういうことだろ。
何かいたらない部下ですみません……ちょっと凹んだ。けど、助かった。
とりあえず次回は失敗しないようにします!

ヴァイロに言われた通り、俺はずぶ濡れの半裸で城の廊下を歩いて、家に帰った。
途中でアマリア王女には「あなたの肉、しまってて美味しそうね」って言われるし、家に帰ったらティナが「うわ、不気味」って言うし、なんか散々だったけど……とりあえず俺は恵まれてるんだろう。そう思いたい。