暖かな目覚め

mudan tensai genkin desu -yuki

普段アルファスが鳥籠に送られる時間は、早くて昼過ぎ、遅くて夜であることがほとんどである。
いつも間際にもたらされる召喚命令。その日指定された時刻は―――― 珍しいことに朝だった。

鳥籠のドアが開く。
いつもなら部屋の中にいる女がそれに気付いて彼に挨拶してくるのだが、この日は違った。
寝台の上で縮こまり動かない物体。それが彼女だと、アルファスが気づいたのは他にそれらしきものがなかったからだ。
彼はとりあえず傍に立つと、シーツに包まった塊に声をかける。
「ティナーシャ」
「…………」
「ティナーシャ、起きないのか?」
寝台の縁に座り、アルファスは塊を叩いてみた。規則的に振動を加えていると、やがて中からくぐもった声が聞こえる。
「うう……」
「もしかして、起きられないのか」
どうやら彼女は朝に弱いらしい。
シーツの下から亀の速度で這い出してくると、彼の服の裾を掴む。憐れを誘う半眼で見上げられ、アルファスは顔を顰めた。
「何だ。水でも飲むか」
「お風呂、連れて行ってください……」
「…………」
いつも掴み所のない彼女が、このように弱っているところを見るのは初めてである。
アルファスは色々言いたいことを我慢すると、ぐったりと萎れている彼女を浴室へと連行した。夜着のままお湯が張られた湯船の中に落とし込む。
ティナーシャはそのまま沈んでしまうかと思ったが、顔だけを縁に出して溜息をついた。
水辺で暮らす何かの哺乳類を連想させるような姿勢に、彼は激しい脱力感を味わう。
「部屋に戻っている。溺れるなよ」
「はーい……ありがとうございます……」
「何分くらいで出てくるんだ? それを過ぎたら死んでいないか見に来る」
「じゃあ一時間で」
一時間後に水死体になっていたらどうしようかと、思わなくもなかったが、このまま浴室で付き合うのも嫌なのでアルファスは部屋に戻った。枕元にあった彼女の読みかけの本を手に取り、時間を潰す。

着替えを持っていかなかったティナーシャは、ぴったり一時間後にずぶ濡れの服のまま出てきた。アルファスに怒られながら着替えて髪を乾かす。
そうしてようやくほわほわになった彼女に、男は「何だか洗いたての猫みたいだ」という感想を持ったが、それは口には出さなかった。
また、少しくらい弱っている方が可愛らしいと思ったことも、当分彼の胸に仕舞われたままになったのである。