いつか来る日

mudan tensai genkin desu -yuki

「いつかこんな日が来ると思ってたよ」
今は嫁いで家を出ている姉。ジウの溜息混じりの感想に、二十歳になったシスイは頷いた。
彼は屋敷の庭を眺め渡して慨嘆する。
「僕はまさか、こんなことになるとは思わなかった」
二人は短い間に、子供だった頃の思い出を想起した。
場所を変え、形を変え、だがいつも最後には彼らの前に現れたもの。
―――― 掌に乗る程の球草の群生に、屋敷の庭はすっかり覆われていた。

「結局ここの地盤にはもう根が完全に張り巡らされちゃったみたいでね。
 上を焼き払っても駄目なんだ。土をかなり下まで掘り返して取り替えないと」
淡々と説明する弟に、帰省してきたジウは何も返すことが出来なかった。眉間を押さえてかぶりを振る。
「で、どうするの?」
「引っ越そうかなと」
「逃げるな」
それでは何の解決にもなっていない。この土地屋敷を売りに出すとしても、それを買った人間はいい迷惑だろう。
「そんなこと言われてもなー」とやる気なく返すシスイを、ジウは冷たい目で睨んだ。
「放置しといて城都全部に広がっちゃったらどうするの?」
「それはさすがに困る。だから品種改良中」
「品種改良中?」
「根絶するのは無理みたいだから。根に耐火性能がついてる」
「…………」
今までジウは、どのような失敗をしても「時が戻ればいい」などと思ったことはなかったが、今初めて思った。
―――― 子供の頃に時間が戻ればいい。そうすれば自分がちゃんと最初の草を処分したのに、と。
姉のそんな祈りも知らず、シスイは腕組みしたまま球草の群れを眺める。
「一番いいのは食用になることだよね」
「出来ればその選択肢は選んで欲しくなかったんだけど」
「蔓を茹でて麺みたいにするとか」
「害がなくても食べたくないな、それ」
何だか胃の中に新たな球草が出来上がるところを想像して、ジウはげっそりした気分を味わった。
一体どうやって食べても安全だと証明するのか。実験台にはなりたくないと切に思う。
シスイは屈みこむと、目の前に生えている球草をもぎ取った。
小さな緑のそれは、今までのことを知らなければ可愛いと思えるかもしれない。
彼はそれを姉へと差し出す。
「とりあえずファルサスにも是非」
「要らない」



シスイはその後球草を少しずつ品種改良し、最終的には水の中で育てるといいということになった。
一つずつ瓶詰めして売り出した観賞用球草。
たまに日光を当てるだけでよいこの植物は、多忙な人間の癒しとして密かに人気を博すことになったという。
勿論、ニケの家には二十個くらい送りつけておいた。