mudan tensai genkin desu -yuki

休日の昼下がり、テーブルの上に転がってた飴袋は、俺のものによく似ていた。
というか俺のだと思った。なめし革の袋なんて珍しくもないし。
だからそこから一個取って舐めたんだよな。ちょっと味が違うかな、とか思った気もするけどやっぱ気づかなかったかも。
というわけで、帰って来たティナにめちゃくちゃ怒られました!
「どうして間違えるんですかね!」
「すみません」
って言われても! 分かんないっつーの! お前も大切な飴こんなところ放り出しとくなよ!
でもそんなこと今言ったら床にめり込まされるから言わない。じっとしてれば嵐はいつか過ぎ去るのです。
と思ってたら、今回は過ぎ去らなかった。
「……ちょっと対策を打ちましょう」
「対策?」
急に何言い出すんだお前。まさか俺を殺せば飴が減らないとかそういう対策?
「これからは自分の持ち物には印をつけるで」
あ、違った。よかった。
ほっと胸を撫で下ろす俺に、ティナは続ける。
「私のものには猫の印、貴方のものには覆面の印をつけましょう」
「おい待て何それ」
「はい、さっさとやる! 紛らわしいものは蒸発させますからね!」
反論は聞いてもらえませんでした。

そりゃ他人同士で暮らしてるんだから、持ち物を区別するってのは大事なことだと思う。
でもそういうのって名前を書くとかでよくないか? なんで覆面。なんで覆面! 俺も猫がよかった!
そんなことを手元のカップを見ながら心の中で叫んだりする。このカップにでかでかと描かれた覆面の印、ひょっとして焼印か何かじゃないか? ティナお前何処まで本気なわけ? そっちの黒猫の焼印押されたカップが羨ましい!
「いや分かりやすいんだけどさ……」
「何か不満でも?」
お茶を飲むうちの魔女は、しらっとした顔をしてます。こいつは大体しらっとしてるか不機嫌かの二択なんだけど。
でもさすがにこれには文句を言いたい!
「いやちょっとひどすぎね?」
「何がですか。分かりやすいって貴方も言っていたでしょうに」
「短剣の一本一本にまで覆面の印が入ってるってのは嫌がらせだろ!」
ここまでする必要あったの!? ってかこれどうやって印入れてんだよ。魔法で覆面の形に刃の表面を削ったのか?
こいつのやることは本気すぎてたまに恐い。ティナはカップを置くと、心外って顔で首を傾げた。
「私のと混ざったら困るじゃないですか」
「武器はそれぞれが手入れしてるだろが! 混ざるか!」
「訓練の時にたまに混ざります」
「あ、そっか……」
投げあったりしてるもんな。確かに混ざる。ごめんなさい。
でも俺、自分の武器は自分で分かるから! むしろ投げた後に足がつきそうな状態にするのやめて!
「もう暗殺者じゃないんですし、別に構わないじゃないですか」
「なんで覆面なんだって聞かれたらどうするんだよ」
「趣味で毎日かぶってますって言えばいいです」
「確かに毎日かぶってるけど趣味なわけあるか!」
趣味じゃなくて習性だからな! その辺わきまえとけ!
俺が息荒く反論すると、ティナはお茶を啜ってぽつりと呟く。
「そういえば……こないだ貴方が間違った飴、あれは飴ではなく魔法薬だったんですが……」
「え……初耳」
「効果についてはまぁ伏せるとして、以後ああいうことがないよう気をつけ」
「待て、効果を教えろ!」
「伏せるとして」
「いやほんと教えてくださいティナさんごめんなさい」
なんで俺が謝ってるのか納得いかない気もするけどごめんなさい!
と、とりあえず次は間違えないよう気をつけよう。お前もテーブルに魔法薬とか放置すんなよ!