mudan tensai genkin desu -yuki

「おっと。これはいささか不味いことになったな」
「不味いってレベルじゃないと思うんですけど」
王と、彼に仕える学者の女。二人が立っているのはファルサス城内にある王族の墓所の入り口だ。
ある相談の為やって来た彼らは、開かなくなってしまった扉を前に顔を見合わせる。
雫は、ラルスの持っている太い鉄の棒に視線を移した。
「っていうか、王様が悪いと思いますよ。違うって思ったらそこでやめればいいじゃないですか。
 なんで更に力入れて無理矢理回そうとするんですか?」
「最近開けてないから滑りが悪くなってるのかと思った」
「王様の全力で開かない扉って多分ないですよ」
―――― そもそも、鍵が鉄棒という時点で既におかしい気もする。
気もするがファルサスなので、そういうこともあるだろうと片付けたのだ。
しかし問題は、どうやら間違った鍵を鍵穴に入れて、鍵を折ってしまったということである。
雫はがっつりとふさがっている鍵穴を、身を屈めて覗き込んだ。
「やっぱ魔法でなんとかするしかないんじゃないですか。見事に嵌まってますし」
「と言ってもな。ここに王族以外を連れてくるのは手続きが面倒。基本無理」
「あれ。私はいいんですか?」
「お前は夫もあわせて重要機密の塊だからなー。今更一個や二個増えても大差ないだろ」
「それ、あんま嬉しくないんですけど。……じゃあ、レウティシアさん呼ぶしかないですね」
今は結婚して城を出ている王妹を、鍵を直す為に呼び戻そうという提案。
その提案が実現した際に待っているものは間違いなく説教なのだが、雫は他人事ということもあって気にしていなかった。
しかしラルスは「今、レティは旅行中」と返す。どうやら夫と共に領地を離れているらしい。
「大体相談ってなんだったんですか」
「そろそろ死体を置く場所がなくなってきたからな。昔の分は骨だけの安置にしようかと思った。
 お前、前にそんなことを言っていただろう?」
「あー、骨壷ですか。理解理解。そうですね。大体これくらいで済みますね」
雫が両腕で抱えるようにして大きさを示すと、ラルスは頷く。
「実際お前が来たばっかりの時の事件で損壊した死体があったからな。適当な壷に詰めて大きさを見ようと思ったんだ」
「それで王様、酒甕とか持ってきたんですか。
 死後の世界がないのに言うのもなんですけど、もうちょっと先祖を丁重に扱ってくださいよ」
「ちゃんと丁重にしてるぞ。今も扉を壊そうとかしてないしな」
「それが当たり前です」
「城内で黒猫を見つけた時には追い回すことにしてる」
「苛めてるじゃないですか」
―――― そこまで口にして二人はもう一度顔を見合わせた。同時にあることを思いついた二人は思案顔になる。

「よし、人参娘、猫を呼べ」
「いやちょっと……こんな理由で呼べないですよ……。正式に手続き取って魔法士の人呼んでください」
「もう面倒になってきたな。このままここは埋めるか。墓は新しく作ろう」
「あーあ……。ま、仕方ないですね。ティナーシャさん呼んで自分のお墓を開けてもらうのもなんですし」
折れた鉄棒を放り出して、ラルスは酒甕だけを拾い上げる。
踵を返す王について地上への階段を上がりながら、雫は改めて大きな溜息をついた。
後で夫にその話をしたところ「君、王を止めずに放置するようになってきたよね」と指摘された。