隠蔽

mudan tensai genkin desu -yuki

「それでこれ、どうするの?」
少年の問いは、彼と父親を同じくする二人に向けられたものだった。
ちょっとした冒険の最後、ちょっとした手違いによって崩落してしまった遺跡を、三人の少年少女は見渡す。
数分前までびっしりと壁画が彫られていた広い洞窟の内部は、今や彼らのいる場所を除いてすっかり瓦礫の山だった。
もっとも年長である少女が、目の前にある小さな台座を見下ろす。
ついさっきまでそこには精巧な彫刻を施した石箱が置かれており、彼女はそれを開けようとして罠を発動させてしまったのだ。
弟たちの制止も気に留めず、蓋に手をかけたフィストリアは軽く頷く。
「うん。失敗したわね」
「いややばいってこれ。禁足地の遺跡破壊しちゃってどうするんだよ」
「もう見る影もありませんね」
最年少のルイスは肩にかかる砂埃を払った。その隣で兄のウィルは激しく頭を抱える。
「あああ……だからやめようって言ったんだよ、城を抜け出して遺跡探検とかさ。これ怒られるぞ」
「うるさいわね! 男がいつまでもぐじぐじと!」
「別に男女関係ない……」
「うるさいっての!」
「姉上が煩いです」
不毛な言い争いをしてみても、遺跡が崩れてしまったという事実には変わりない。
三百年前に発見された時から「残存する魔法装置が危険」という理由で封鎖されてきた遺跡の成れの果ては、三人にそれぞれの憂鬱を与えていた。
ルイスは小さく溜息をついて上の二人に問う。
「さて、父上に報告するのと母上に報告するのとでは、どちらがましでしょうかね」
「げ……」
「う……」
この国を治める王と王妃。玉座に在る彼らはどちらも抜きん出た戦闘巧者である。
まさかその全力をお仕置きの為に子供たちに振るってくるとは思わないが、罰が怖いのは確かだ。
蒼白の顔色で固まってしまったウィルをよそに、フィストリアは両手をぽんと叩いた。
「別に報告しなくていいんじゃない? 私たち黙って出てきたし、禁足地なんだから崩壊したって分からないでしょ」
「まぁそうですね」
「え、本当に?」
ルイスがさらりと同意したのを聞いて、ウィルは慌てて二人を見た。
仮にも王族である自分たちがそのようなことをしていいのかと思ったのだが、姉と弟の両方はどうやら本気のようである。
「大丈夫大丈夫。瓦礫ちょっと消しちゃって綺麗にしとけば」
「何もない遺跡の出来上がりですね。見つかったとしても僕たちの死後であれば問題ないでしょう」
「じゃ、ルイスそっち側やりなさいよ」
「分かりました」
魔法によって最低限の処置を施そうとし始める姉弟に、今まで呆気に取られていたウィルはそっと手を上げて制止しようとした。
「あの、やっぱ不味いだろ。ちゃんと報告しないと……」
「まったくだ。気持ちは分からないでもないが」
瓦礫の上によく響く声。三人全員がぎょっと身を竦ませる。
その声の主である彼らの父親は、遺跡の入り口の壁に寄りかかって崩落した洞窟内を眺めていた。
いつからそこにいたのか、まったく気づいていなかった子供たちは顔色を失くす。
ウィルがおそるおそる確認した。
「父上どうして……」
「ティナーシャがお前たちの不在に気づいて探しに行った。で、思いついて調べたら遺跡の資料を抜いた形跡があったからな。
 ―――― あいつに見つかって怒られるよりましだろう?」
父の言葉はまったくもって真実である。
三人は「帰ってから説教な」との決定に項垂れると、改めて指示を受けて遺跡を片付けることにしたのだった。
母たちからは一応庇ってもらえた。