mudan tensai genkin desu -yuki

時間は、日も変わろうかって深夜だった。路地裏には明かりが差し込んでこない。
俺は、自分がそういう場所を選んだにもかかわらず、暗いな、なんて思ってた。
でも別に、暗いからって何も見えないわけじゃない。目は十分慣れているし、辺りのことは分かる。
だから俺は、そこに倒れている男と、その男の傍で泣いている子供をちゃんと見てた。
血の色は暗くてよく分からない。
それでも俺は、俺の殺した男と、その男の子供を見ていた。



「うおっ」
思わず声を上げて飛び起きた時、俺がいたのは暗い路地じゃなくて自分の部屋だった。
見慣れきった眺め。壁にはティナに開けられた穴を塞いだ痕がある。
っていうか何であいつ壁に穴開けたんだっての! 腹立ったなら壁じゃなくて俺を殴れ! あ、手加減お願いします。
―――― そんなことはともかく、俺は自分がいる現実を確認した。
ずっとやってた暗殺者をやめて、武官になってるっていう現実。
そうだよなー。うん、そうなんだよな。
久しぶりに昔の夢なんて見たからか、指が冷たくなってる。
俺はなんとなくひんやりしている体を起こすと、もそもそと着替え始めた。
基本誰に見せることもない体は傷だらけで、でも自分も見ないからどうでもいい。
一度だけティナに背中見られて「うわっ」とか言われたけどな! 
でも大したことじゃないだろ。過去に俺がしてきたことに比べれば。
俺は、さっきまで見ていた夢を振り返る。

あの時殺した男の子供は、五、六歳に見えたな。今生きてたら十歳くらいか?
噂では、あれから俺を探してるって聞いた。
でも暗殺者に復讐するのとか無理だろ。基本顔割れてないし。
それに自分絡みのことだって差し引いても、無駄なことだと思う。
そういう風に道間違って、結局自分が暗殺者になっちまったって奴もいるわけだし。
暗殺者を狙おうなんて、霧の中に手を突っ込むみたいなもんだ。
何も掴めないし、行く先なんて少しも見えない。

着替えて食卓に向かうと、ティナがテーブルに突っ伏して寝てた。
もう食事の準備は出来てて、あとは食べるだけって状態。おおお、今週初めて起きてきたな! 奇跡か!
っていってももう寝てるけど。ありがと。
俺は冷めかけたスープをすすって、パンをちぎる。
普段はあんまり考えごととかしないんだけど、部屋が静かだからなんか色々考えた。
それは自然と今日の夢に繋がることで、でもそこに新しいものはない。
昔のことについても、悪いと後悔してるわけじゃないんだ。
そういう単純な言葉に収まることじゃなくて…………いや、もっと単純なのか?
とにかくそれは、俺のしてきたことだ。
目を背けようとは思わないし、変えることもできない。
ただひたすらに飲み込んでいく。

食事を終えて洗い物してたら、テーブルで寝てたティナが起きてきた。
目を擦ってあくびをするやつに、俺はちょっと気になって聞いてみる。
「な、ティナ」
「なんですか」
「お前さ、自分が許せないってことあるか?」
例えば過去に色々ありそうなこいつも、そういうこと考えたりするんだろうか。
そう思った俺に、ティナは綺麗な顔をしかめて吐き捨てた。
「そんなの、毎日思ってますよ」
ああ、やっぱそうか。

他の人間がどういう生き方してるかは知らないけど、これが俺たちの普通だ。
祈ることはしないしできない。
ただそういうものなんだと、思う。