邪心

mudan tensai genkin desu -yuki

ファルサスに伝わる王剣アカーシア。
鏡に似たその両刃は決して刃毀れせず、また折れることもないという。
この伝説が何処まで真実であるか、知る者は少ない。
ただ皆が知ることが出来るのは、王剣が建国時から変わらず健在であるという事実だけである。

「そんな訳で何処まで丈夫なのか試してみようと思ってな」
「―――― ほう、それでお前はアカーシアの上に石を重ねていったわけか」
来訪者の低い声は、大きなものではなかったが、聞く者の心胆を寒からしめる威に満ちていた。
王の周囲にいる人間たちが揃って蒼ざめる中、ラルスは平然と頷く。
「実際かなり耐えたな。さすが王剣」
彼の目の前には四角く切り出された巨石が、間隔を空けて二つ置かれている。
その上にアカーシアを渡して、剣身に重石を積んでいた王は、手元の王剣を見下ろした。
途中で軽く曲がってしまったアカーシア―――― そこに人々の視線が集中する。
「まさか曲がるとは思わなかった」
「曲げる気があったんだろうが!」
ありえない知らせにより呼び出されたオスカーは拳を振るう。
ラルスはそれを紙一重で避けると「あーあ、やっぱり怒られた」と子供のように呟いた。

王剣が曲がってしまうなどということがあるとは思わなかった。
思わなかったが、これは何とかせねば不味いだろう。
普通の剣と違い、鍛冶屋に出せば直るというものでもない。
オスカーは人払いをしてしまうと、城の中庭で曲がってしまった王剣に悩んだ。
それをよそに当事者であるラルスは、彼が連れて来た黒豹を追いかけ回して遊んでいる。
オスカーは湾曲した刃に左手を添わせた。
「どうすればいいんだ、これは」
「お前の持ってるのと交換とか」
「出来るか! 無理を言うな!」
「もう曲刀に作り直すとか」
「王剣を勝手に作り直すな!」
怒鳴っても事態が解決しないのでは仕方ない。
オスカーは、自分の異能でそれが直せないかと悩んだ。触れた手から試しに力を注いでみる。
その様子を黒豹に逃げられてしまったラルスが横から覗き込んだ。
「折角だから愉快な感じに変形希望」
「そろそろ黙らないと畳むぞ」
「むしろ折った方がよかったか?」
「そっちの方が直しやすそうだな……」
王剣への尊重がまったく見られない男は、「何だ、折っても直るのか」と嘯いた。
もはや子孫を無視することを決めたオスカーは、だがまったく直し方の見当がつかず、相方の黒豹を手招く。
木の上にまで逃げていたティナーシャは、それを見て跳ねるように駆けてきた。
「オスカー、何やればいいんですか?」
「俺が聞きたい……」



結局、王剣の修理には夜中までかかった。
逸脱者二人を動員しての珍事件に、しかしラルスは「あんまり面白くなかった」と洩らしただけだったという。
それ以降、ファルサスの宮廷法には「王剣の上に石を積んではならない」という項目が増やされた。