人形

mudan tensai genkin desu -yuki

その日呈された試作品は、掌に乗る大きさの人形だった。
ガンドナの宮廷に勤める魔法具技師の一人、サイラは、試作品の一つを研究室に遊びに来た二人へと見せる。
それぞれ大貴族の跡取りであるゼノとイレーヌは、テーブルに置かれた人形を前にそろって沈黙した。
白々しい空気が右から左にたっぷりと流れていく。
「で、それが何だって?」
ようやく発せられた確認の言葉に、サイラは真顔で頷いた。
「殿下人形です。小型化してみました」
「…………」
なんで小型化してしまったのか、と思ってはみてもされてしまったのだから仕方ない。
再び沈黙する二人の視線の先で、奇妙に捻れた呪いの物体は「何か問題があるのかい?」と本物そっくりの声で胸を張った。

若干二十二歳のサイラは、たぐいまれなる発想・技術力と破滅的な造形力をあわせ持つ魔法具技師だ。
彼女の生み出す魔法具は画期的で、なおかつ非常に高性能ではあるのだが、その分外見は壊滅的である。
人の才能が不均衡であることを如実に示す彼女の存在は、多くの人間に怖いもの見たさと言うべき興味を抱かせるが、それ以上に「関わり合いになりたくない」と思わせるらしい。
結果として自分からサイラに関わっていく者は、今のところ若き王太子の他は、ゼノとイレーヌの二人だけになっていた。
この日もそうしてふらりと研究室にやってきた二人は、人形には見えない土色のねじ曲がった物体を前にそれぞれの思案顔を見せる。
お茶を飲んでいたイレーヌがぐねぐねと蠢く物体を手に取った。
「それで、これは何に使うものなのかしら」
「お一人様一つずつ枕元に」
「いらねーよ!!」
「一時間ごとに喋る機能をつけておきました」
「煩くて寝れるか!」
人形の元(?)となった王太子に聞こえるところでそんなことを言えば、たちまちどろどろとした謎の液体の中で正座させられることになるだろうが、幸い研究室には三人の他に誰もいない。
声を荒げたゼノは、木の根を絡めて手足を模したような人形を、イレーヌの手から奪った。
「で、他にはどんな機能があるんだよ」
「毎日の運勢が占えます」
「要らない機能ばっかりだな!」
今までサイラの作ったものは、造形や方向性は駄目でも機能的には見るべきところがあったのだ。
だからこそ彼も一抹の期待をかけてみたのだが、今回はどうやら見るべきところもないらしい。
「結構いいかも」などと寝言を言っている従姉妹をおいて、ゼノは席を立ちかけた。
その時サイラが、机の下にあった大きな木箱をどんと上に置く。
「何だこれ?」
「この人形は集団偵察任務を担うことも可能です」
彼女が蓋の掛け金を外すと、蓋は独りでに持ち上がった。出来た隙間からゼノは中を覗き込む。
そして悲鳴を上げそうになった。
「こ、これは」
箱の中にぎっしりとつまって蠢く根人形。五十はいるのではないかというそれらは、全てが王太子の声でひそひそと囁いている。
悪夢でなければおかしい光景に、ゼノは再び蓋を押し込んだ。下から叩いてくる複数の感触を無視する。
「……偵察?」
「目的地に放つと暗いところを選んで分散行動します。一定時間後に整列して情報報告です」
「…………」
―――― 分散して偵察し、集合して報告する自律型の魔法具。
それだけ考えればかなりの優れものだが、この造形が酷い。いつものサイラ品だ。
このようなものが暗がりを蠢いていては、見つけた人間はまず叫び声を上げるだろう。
ゼノは機能だけを何とか生かせないか、使い道を考え始める。
「せめて殿下の声がなければな……」
「殿下人形ですので」
「どう見ても呪われてる」
「整列時に見つかった場合は、木の根に擬態することも出来ます」
「根っこに似てるって自覚あるなら何とかしろ! 殿下と木の根の何処に共通点があるんだよ!」
「顔ですかね」
「お前、本当自由に生きてるな」
打っても堪えない人間とはこのようなことを言うのだろう。
げっそりとしてうなだれるゼノは色々なことを諦めると、忌まわしい人形を封印すべく木箱を杭打ち始めたのだった。
―――― その後イレーヌは、気に入って持ち帰った一体を目覚まし代わりにし、重宝しているらしい。