躾け

mudan tensai genkin desu -yuki

ひょんなことから他人と同居することになった。
それは世間から見ると大したことじゃないのかもしれないけれど、俺にとっては一大事なわけですよ。
だって今までこそこそした暮らししかしてなかったんだもん!
でもって相手は魔法士。魔法士の女の子。で、この国、魔法禁制!
俺、初めての同居でこんなに無茶しちゃっていいの!?

「……散らかってるどころじゃないですね」
家の中を一通り見回ってくるなり、女の子はそう言った。
両手を腰に当ててる姿がとっても迫力あるんですけどなんで? 俺、部屋を散らかしてるだけでひどい目にあうの?
女の子は椅子の上に詰まれた洗濯物の山を、呆れ果てたと言わんばかりに見やる。
そのままぱちんと指を鳴らし―――― え、なんでなくなるの!? 何処行った俺の服!
「貴方は生活全般が駄目っぽいんで、家事は私がやりましょう」
「え……あ、へぇ」
へぇ、とか思わず言っちゃった。なんだ、へぇって。
けど女の子は少し眉を顰めただけで聞き流してくれるみたい。それにしても吃驚するくらい綺麗な顔だな。性格怖そうだけど。
大体十三歳くらいか? 中身のせいか大人びて見えるな。
女の子は洗濯物がなくなった椅子の上に足を組んで座った。
「とりあえず脱いだものは浴室の籠に入れておくこと! あと食器もその辺に置いたら怒ります」
「へ、へぇ」
「床の上に放り出してあるものは捨てられても文句は言わない。いいですね?」
「うん……」
十歳以上年下の女の子にこんなこと言われてるって、俺ってひょっとしてかなりの駄目人間ですか。
でも約束は守らないとな。一緒に住むんだし。この子の保護者になるんだから、俺もきちんとしないと!
って、拳をぷるぷるさせて決意をしていく間にも「やっちゃいけないこと、やっておくこと」の確認は続いていく。
「あと、食べ物の好き嫌いとかありますか?」
「特にない」
ネギが嫌いとか言えない! いい大人なんだし、格好悪い。
女の子は「そうですか」と頷いてメモとってた。ちょっと何書いてるか気になる。
見たら駄目だよな。この子の部屋も基本入るな、って言われてるし。



けどともかく、初めて人と同居するんだからな! 頑張る! 立派な保護者になるからな、俺!
―――― って思ってたら恐るべき事実を聞いた。
「私のことはティナって呼んでください」
「ティナ?」
「偽名ですけどね。ああ、年齢は貴方と同い年です」
「え……?」
なにそれ。なにそれ……。どう見ても二十歳過ぎには見えないんですけど。え?
「成長止めてありますからね。魔女ですしそれくらいは出来ます」
「魔女?」
え、それってひょっとして、大陸に五人しかいないっていうあれですか。
なんだなんだなんだそれ、聞いてないぞ!
「あと基本、買出しは貴方の係で。私、外出るの嫌いですから」
「は、はい」
いや待って、なんか今混乱してるから、あんまり言い付けとかされても忘れそう!
偽名で本当は同い年で魔女? ちょっとそれ、色々盛りすぎじゃないか?



けどあいつの方は、それで話が一段落らしい。猫に似た大きな眼が俺を見上げた。
「貴方は?」
「はい。はい?」
「貴方からは何かないんですか。一緒に暮らしていく上で」
「あー……」
お願いごとかー。何かあるかな。ネギくらい? でも言えないしな。うーん。
俺は悩んで悩んで―――― 一つだけ思いついた。ぽんと手を叩く。
「俺からはじゃあ、他人に魔法使ってるとこ見られないように、で!」
とりあえずこれは大事だろう! この国で生きていく以上絶対譲れないことだぞ!
そう思ってティナを見ると、すごく呆れた目で見返された。
「それって当たり前のことですよね……」
「そだな……」
しみじみ言わないで。なんか切なくなってきた。
ティナは憐れむ目で俺を見てる。

ともかく……一緒に暮らしてみないと分かんないこともあるし、頑張ってみるか!
保護者って感じじゃないけど同居人として頑張ってみる! 
―――― そう決心した翌日に、洗濯物その辺に置いて怒られました。うん、ちょっとずつ頑張る。