慰め

mudan tensai genkin desu -yuki

誰かに抱きしめられて眠る夢を、見ることがある。
はっきりとした夢ではない。まるで靄がかかったように曖昧な夢だ。
だからその相手が誰かも分からない。ただ自分はその腕に包まれて、安堵して眠っている。
そんな夢を、見る。



「かあさま、おしえて!」
魔法書を読んでいたティナーシャの元に、そう言って娘が飛び込んでくるのは珍しいことではない。
ついこないだ歩けるようになったと思えば、今はもう一人で何処にでも走っていってしまう。
精霊がついているからそう困ったことにはならないだろうが、落ち着かないことは確かだ。
今も飲もうとしていたお茶をテーブルに戻して、ティナーシャは娘を膝に抱き上げる。
「はい、何が聞きたいの?」
「ちちおやって、なに?」
「……おおう」
いつか聞かれるのではないかと思ったが、実際直面するとそれなりに衝撃はある。
ティナーシャは質問の答を考えながら、逆に娘へと問い直した。
「誰かに聞いたんですか?」
「おはなしにあったの」
「あー」
誰かに絵本でも読んでもらったのだろう。
ティナーシャはひとまず納得すると、フィストリアの疑問に答える。
「人間には、母親と父親がいるんですよ。貴女の母親は私です」
「じゃあ、ちちおやはだれ?」
「それが分からないんですよね……」
記憶がない間に身篭っていたティナーシャは、夫の顔も名前も知らない。
そもそも自分が結婚していたかさえ分からないのだ。魔女であるということを考えると、婚姻までは結んでいなかった可能性が高いだろう。
ティナーシャは視線を空中に彷徨わせて、だが娘の困惑に気づくと微笑する。
「貴女の父親が何処にいる誰でも、きっと貴女の幸せを願ってますよ」
「……ほんとうに?」
「本当に。約束します」
―――― いつか会えるかもしれない、とは言わない。
守れるか定かでない約束は出来ない。すればフィストリアは期待を支えにしてしまうだろう。
ただ、彼女の父親が娘を大切に思うことは確かだ。
そうでない男を自分が選ぶはずがない。ティナーシャはその点だけは確信していた。
「フィストリア、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「うん、かあさま」
ティナーシャは娘を抱き上げると寝台へと向かう。
共に横になり、不安と祈りを宿す目をそっと閉じさせた。
そうして小さく温かな体を抱きしめる。頬を寄せて存在を確かめる。
曖昧な夢の中では、そうやって寄り添って眠る自分たちを、誰かの腕が抱く気がした。



「オスカー、お願いがあるんですけど、いいですか」
「どうした二人して。何だ?」
「あの、ぎゅっとしてください。まとめて」
「?? 分かった。おいで」