突然

mudan tensai genkin desu -yuki

帰って来た夫が腕いっぱいに花を抱えていた時、どういう反応をするのが妻としては正しいのだろう。
玄関を開けてすぐメレディナはそんなことを考えたが、それ程真剣には考えなかった。
結果としていつも通りの反応を返す。
「どうしたの、それ」
「買ったというか押し付けられたというか」
「花売りに?」
「いや、城の魔法士たちに」
「は?」
城の魔法士たちがおかしなことをしているのは随分昔からだが、今度は何を始めたのか。
メレディナは疑問に思いつつも色鮮やかな花束を受け取った。澄んだ香りに自然と顔がほころぶ。
だが果たして花瓶は何処にしまっただろうか。
花束をテーブルにおいてあちこちを探し出す妻に、アルスは物珍しげな目を向けた。
床下を開けて花瓶を取り出した後振り返り、彼が笑っているのを見て、メレディナは頬を膨らませる。
「何よ」
「いや、嬉しそうだなと思って」
「……嬉しいけど」
幼馴染であり同僚であったという経過のせいか、結婚してもあまり夫婦という感じのしない夫婦だったのだ。
彼から物をもらうこと自体が珍しく、しかも花など初めてかもしれない。
たとえ出所が城の魔法士たちであっても嬉しいものだ。
見て分かることをわざわざ言ってくる夫を、彼女はねめつける。
「なによ。私には花とか似合わないっていうの?」
「いや、そういうんじゃなくて。ごめん」
「目が笑ってる」
「違うって。俺が怒られたんだよ」
「は?」
話がよく分からない。
怪訝な顔になるメレディナに、アルスは城であったことを説明してくれた。
―――― 要するに、何かの拍子で彼は「結婚以前も今も、妻にほとんど贈り物をしたことがない」と話してしまったそうなのだ。
それを聞いた女性陣には詰め寄られ、男たちには呆れ笑われ、王妃には苦笑された。
最終的に主君に「たまには予想を外して贈ってみたらどうだ?」と言われ、今に至るのだという。
ちなみに花は魔法士たちが実習で作っていたものらしい。
一通りの顛末を細かいところまで聞いたメレディナは、腹を抱えて笑い転げた。
涙を滲ませて笑っている彼女を、アルスは困惑を湛えて見下ろす。
「そんなに笑わなくても……」
「だ、だって」
おかしいものはおかしいのだから仕方ない。メレディナはなんとか笑いを収めて花瓶に水を入れると、花を活け始めた。
「別に、あなたはそういう人だって知ってるから気にしないけど」
「いやでも喜んだだろ。もっと早く何か贈ればよかったって思ったよ」
「物が嬉しいわけじゃないからいいの」
たまにはこういう(周囲の)気遣いも嬉しいが、そうでなくても現状には充分満足なのだ。
メレディナは活け終わった花瓶を夫に手渡す。
「はい、玄関に飾ってきてよ、旦那様」
「その呼び方怖い」
「うるさいわね」
広い背中を小突いてやろうかと思ったが、気分がよいのでやめにした。
メレディナは花の残り香を吸い込んで窓の外を見やる。
気分のよい晴天は、しばらく続きそうだった。