星占い

mudan tensai genkin desu -yuki

受け取った紙に描かれているものは、星の地図というべきものだった。
元の世界では星座図とも言うそれを、雫は感動の目で眺める。
「わー、面白いですね。こうなってるんですか」
「月によっても違うけどね。それは二百年前に作られたものの複製みたいだ」
小さな部屋に保管されている本は、そのほとんどが乱雑さをもって床の上に積み上げられている。
ファルサス城都に住む好事家が亡くなり、家族が蔵書を処分したいと申し出たのを受けて派遣されてきた二人は、先程から珍しい本を探し出してはそれらを「城の図書館行き」に分類していた。
雫は改めて机の上に星図を広げてみる。
「こうしてみるとやっぱり地球と違う、のかな? よく分からないですね……」
小中学生の頃には理科で星座についてもやったはずだが、いまいち記憶が定かではない。
少なくともオリオン座や北斗七星のような、雫でも知っている星座はその中には見当たらなかった。
「ここは地球なのか違うのか」を腕組みして悩む彼女は、ふっと別の問題に思い当たる。
「―――― ということは、こっちの世界には星座占いがないんですね!」
「うん何それ」
「蟹座とか獅子座とか。誕生日で分けるんですよ。全部で十二種類」
元の世界ではメジャーな存在である十二星座占いだが、当然ながらこの世界には存在しない。
雫の端的な説明に、彼女の夫であるエリクは「面白そうだね」と真顔で相槌を打った。
「君もじゃあ、十二のうちのどれかに分けられてたの?」
「私は、えーと天秤座ですね」
「なるほど。公平さが肝要とか、そんな感じ?」
「忘れました」
姉の海であれば知っているかもしれないが、雫自身はあまり星占いに興味を持っていた方ではない。
腕組みをして首を捻ってみるが、まったくためになる情報は思い出せなかった。
「こっちには星で占いをするっていうのはないんですか?」
「あるよ」
「あるんですか! エリク何座ですか! 蛸壺座ですか!」
「蛸壺って何」
「蛸は壷っぽいものがあるとそこに入る習性があるんですよ。それを利用して紐付きの壷を海に沈めておくわけです」
「ああ、それで蛸が中に入ったら引っ張り上げるのか」
「そうそう。蛸の刺身とか美味しいんですよね」
「君はよく魚類を生で食べたがるよね」
みるみるうちに脱線していく会話。新鮮な刺身を想像して胸を膨らます雫をよそに、エリクは星図を畳んでしまう。
黙々と本の仕分けをする夫に、彼女は我に返ると目をまたたかせた。
「あれ、何の話してましたっけ」
「蛸の話」
「ああ、そういえば」
ぷっつりと途切れた話題を引き戻すには、残っている本は多すぎる。
雫はその後も「タコヤキ食べたいなあ」と呟きながら仕事を終え、帰りに乾燥蛸を買ってもらったのだった。