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mudan tensai genkin desu -yuki

どうにもこの国の人間は俺に無茶振りすることを日課にしてる気がする。
出仕してすぐ「ここ行って盗賊団捕まえてきて」ってのは何なの。冗談なの。
俺ただの武官だし、この城、頑張っても月給制だし。そりゃちょっとは報奨金出るかもしれないけど、不可能は可能にならないと思います。
というわけで、郊外の小さな遺跡に住み着いちゃった盗賊団を捕まえる前に、俺は家に帰って同居人に相談したわけです。
日向で寝そべってお茶飲んでたティナは、それ聞いて頷いた。
「大変そうですね。頑張ってください」
「いや手伝ってくれよ!」
盗賊団っていっても十人くらいしかいないらしいけど、遺跡で迷子になったらどうするの!
二度と帰ってこられないぞ! 困るだろ! 困るって思って!
「って言っても。私が一緒に行ったらそれはそれで不味くないですか? 皆殺しにしていいわけじゃないんでしょう?」
「さらりとすごいこと言うな、お前」
でも確かにそうなんだよな。魔法禁止のこの国で、魔女と一緒なのを見られたらまずい。
そうじゃなくても盗賊団のいるところに子供(に見える女)を連れてったらおかしいもんな……。
「どうすればいいんだ……」
「玉砕すればいいんじゃないですか」
「もうちょっと真剣に考えて」
「骨は拾います」
それ真剣じゃないだろ。考えるのやめてるだろ。
でも当事者なのは俺なので、俺が真剣に考えます。えーと、えーと。
「……魔法で姿変えたりとかできないのか?」
要するに今の姿だから目立つんだろ。妙に顔綺麗だし。もっと虫とかみたいに小さかったら魔法使ってもばれない気がします。
まぁそんなの不可能なんだろうけど。言ってみただけ。
でもティナは顔を上げると細い首を傾げた。
「変化ですか? 昔講義で一回やっただけですからね。今も出来るかな」
「できるの!?」
「結構難しいんですけど。何に変わるか表象がはっきりしてないといけませんし……髪色がこれなんで、鴉とかでいいですか?」
「何その死肉を拾う気満々みたいな選択」
もうちょっと普通のものに変われないんですか。鴉連れ歩いてる武官も多分結構見た目やばいから。「くっくっくっ」とか笑い出しそう。
他にもっといいのあるだろ、他に――――
「猫とか」
「猫ですか」
俺、猫好きだし。猫好きが広まる分にはなんら問題ない! 色も黒で問題ないだろ。あとなんかティナは猫っぽい。
ティナは起き上がると胡坐組んで両手を広げた。
「いけるかな。ちょっと試してみますか」
「あ、できたら子猫で。あと短毛」
「面倒な注文つけないでくださいよ……」
うわ、すっげ嫌そうな顔。でもやってくれる気はあるらしい。
ティナは長い呪文を唱え始めた。少しずつ体の輪郭がぶれ出す。いやこれ頼んどいてなんだけどどういう仕組みなんだ?

数分後、床の上にちょこんと座ってたのは小さな黒猫だった。
か、かわいい! これはかわいいぞ! 猫と暮らす夢が叶った!
「やったー!」
「……何でそんな喜んでるんですか。さっさと行きますよ」
床から見上げてくる子猫は、俺を睨んでるんだろうけどただかわいいだけだ。
いやもうずっとこの姿でいない? その方が世界も平和な気がする。
―――― って思ってた俺は、でもこの後魔法で吹っ飛ばされた盗賊と遺跡の壁を見て考えを改めました。
猫だろうとなんだろうとティナはティナだ。
でもかわいいからたまには猫になってくれると嬉しいです。