背中

mudan tensai genkin desu -yuki

ジウの弟である少年がよく分からないことをしているのはいつものことだが、姉として不審な動きを見過ごす訳にもいかない。
珍しく家族の誰もが出仕しない休日、彼女は家の中を徘徊する弟を見咎めて声をかけた。
「シスイ、何してるの?」
「観察」
「何を」
「両親」
「…………」
両親と言うからにはそれはジウの両親と同一である。
言われてみれば、書付を取りながら移動している彼が追っているものは、両親のどちらかであるらしい。
何故家族を観察しているのか、呆れ顔で聞こうとするジウの先手を打って、シスイは説明した。
「いや、姫が普通の夫婦ってどういうものか知りたいらしいからさ」
「うちは普通じゃないよ」
「僕もそう思うけど。じゃあうちを観察してその要素を取り除いたら普通の夫婦になるんじゃないかと思って」
「迂遠。最初から普通の夫婦を観察した方がいいよ」
「家族以外をこんなびっちり観察出来ないだろ」
「それはあるかも」
弟の主張には一理あるような、やっぱりないような気がする。
しかしこの会話を切っ掛けに、シスイは姉との意見交換へ移る気になったらしい。ペンを手の中でくるりと回してジウへと向き直った。
「姉さんって、二人が何で結婚したか知ってる?」
「知らない。……あ、でも、同僚だったんでしょ?」
「そうだっけ。父さんが母さんの教師をしてたんじゃなかった?」
「それ、もっと後の話でしょ。どっちもファルサスで宮仕えしてたと思ったけど」
「あれー?」
元々父は自分のことをまったく語らない。母は母で、彼女自身のことを聞くと何処か的を外した話が返ってくるのだ。おまけにすぐに脱線する。
これはまったくの第三者に聞いた方が正しい情報が得られるだろう。
ジウは自分達家族が出入りする二国の国主をそれぞれ想像し、機会があったら自分の仕える女王に尋ねてみようと考えた。
その間にもシスイは首を捻って推察を続けている。
「大体仲はいいけどさ、うちの親ってどっちも淡白だし、どういう理由で結婚したのかよく分からないよね」
「さすがにお父さんでも理由もなしに結婚はしないと思うけど……価値観があったとかそういうことじゃないの?」
「研究者同士で結婚すると何かの控除があるとか」
「ああ」
―――― さすがにそれはない、と言い切れないところが彼らの両親だ。
それだけが理由とは思えないが、気があって控除が得られるなら結婚してもおかしくない。
どこをどう切り取っても「普通」からはかけ離れた夫婦。
だがそれはそれとして家庭内は平和であるのだからいいのだろう。ジウはいささか乱暴に思考を打ち切るとその場を立ち去った。
再び観察に戻ったシスイはその後も両親の動きを追い続けたようだが、大した成果は得られなかったという。
後日、二人の仮説を聞いたキスク女王は腹を抱えて笑った。