神様

mudan tensai genkin desu -yuki

扉の前に立ち尽くす少女は所在なげに見えた。
或いは所在なげと思ったのは、彼女をここに連れて来たティナーシャだけで、実際少女はそんなことを気にしていないのかもしれない。
魔女がいる森に迷い込んで、そこで困り果てていた少女は、二人の女に向かって必死で訴える。
「だから、お父さんを助けて欲しいの! その為に神様にお願いしようって―――― 」
「神様なんていないわよ」
呆れたようにあっさりと返したのは、この家の主人である女だ。
ティナーシャは、冗談や面倒くささで言っている訳ではなく、そう本気で少女に諭しているらしい友人を、まじまじと眺める。
「……こう言ってるんだから、叶えてあげればいいじゃないですか」
「は? 魔女がどうしてそんなことしなきゃいけないのよ」
「だから神様」
「あんた、どうしたの? 疲れてんの?」
「本当に記憶がなくなるんですね」
面白い面白い、と呟きつつ、ティナーシャは少女へと向き直った。
「で、お父さんをどうしたいんですか」
「なくなった足が戻りますようにって」
「うーん。そういうの得意なのってレオノーラだったんですけどね」
治癒が得意だった魔女は、ティナーシャの夫が殺してしまったのだから仕方がない。
彼女はもう一度ルクレツィアを見やった。
「で、どうしますか神様」
「あんたさっきからふざけてんの??」
「うーん……どういう切っ掛けで記憶が戻るんですかね」
ルクレツィアについては、面白いし気になるのだが、それはさておき欠損四肢の復活はさすがにそう簡単には出来ない。
そもそも頼まれたからと言って、やるかどうかも別だ。
ティナーシャは色々と考えたが、それを口に出すことなく家の主人に判断を委ねた。
「貴女の森なんで、貴女に任せますよ」
「じゃあ記憶弄って家に帰すわよ」
「はいはい」
冷たい気もするが、仕方のないことだろう。
今、この大陸に神はいない。願えば何でも叶うというわけではない。
それを人々も今は知っているはずなのだ。
泣きじゃくる少女に向かってルクレツィアは指を鳴らす。
たちまち床の上に昏倒する彼女に、ティナーシャは歩み寄ると記憶操作の構成を手の中に生んだのだった。



少女を家に帰してきたティナーシャは、一ヵ月後、もう一度少女の家に様子を見に行った。
何とかしてやろうと思った訳ではない。ただどういう暮らしをしているか気になっただけだ。
事故によって両脚を失ったという父親は、義足をつけて生活しているようだった。
慣れないながらも娘に手を引かれて家の周りを散歩する彼を、ティナーシャは遠目から眺める。
義足は魔法具なのだろう。魔女は目を細めてその構成を眺めた。
「―――― 回りくどいことしますね、うちの神様は」
見える構成は、今の魔法具技術では到底実現不可能なものだ。
おそらく、訓練をして慣れれば本物の足と同じく動かせることが出来るだろう。
ティナーシャは肩を竦めて、音もなくその場から転移して消える。
記憶があろうともなかろうとも、「彼女」はどちらでも構わないし、大差はないのだろう。
そう思うとアイテアの胡乱も、なかなか捨てたものではない気がした。