仲間

mudan tensai genkin desu -yuki

軍部に入って、友人というほど親しい人間は出来なかった。
出来たと思ったただ一人は、あんなことになった。それを考えると、必要以上に人と親しくならなかったのは、正解だったのかもしれない。
その代わりと言ってはなんだが―――― 今の彼には、困った性格の親しい上官がいる。

「キーファ、明日、休暇だろう。少し遠出をしてみないか」
「……いえ、小官はちょっと」
先日、連れ立って出て行った先で、謎の乱闘に巻きこまれたキーファは遠慮がちにその誘いを断った。
別に当の上官であるレヴィが嫌いなわけではまったくないのだが、彼はやたら揉め事を引き寄せる。
そして持ち前の好奇心をもって、その一つ一つに首を突っこんでしまうのだ。
今のところは戦闘能力の高さと勘の良さで全てを切り抜けてきているが、キーファが同じことをしたら今頃七階級は特進している。
やんわりと断りを入れた彼は、まだ中身の残っているカップを置いて、カフェの席を立とうとした。
そこに上官の声がかかる。
「そこの酒場なんだが、店主がエギューラ機巧のコレクターでかなり珍しいものも展示されてるらしい。武器主流になる以前の時代のものもあるとか」
「行きます」
なんだか見抜かれている気もするが、今の時代、エギューラで動くものはほぼ全てが武器と言っていい。
このように淘汰されてしまう前には、それこそ様々な発想が溢れて玩具から医療用具までもが作られていたのだ。
キーファはそのような中にも、これからに役立つ技術があると考えている。
もっとはっきり言ってしまうと、単純に古いエギューラ機巧に興味がある。見てみたい。気になって仕方ない。
キーファはテーブルに両手をついて立ち上がる。
「行きましょう、閣下! 今日終わったらすぐに!」
「よし、車を用意するか」
「すぐに予算を引き出してきます! 販売しているものがあった時のために!」
「落ち着け、キーファ」

止める側と止められる側が一時的に逆転してしまったのは遺憾だが、外出が楽しみになったのは事実だ。
二人は夕暮れ時の基地を出て、離れた街へと車を走らせる。
好んで運転を買って出ているレヴィが真っ直ぐに伸びる街道を眺める。
何かを探しているかのようなその視線は、ある一時期からよく見かけるようになったものだ。
おそらくはテドラの基地を壊滅させた時から、何かが変わったのかもしれない。
あの時、自分も多くの転換を得たキーファは、単独行動をしていた上官に何が起きたのか気になった。
今なら聞けるだろうか、と口を開く。
「閣下、あの時テドラの基地で、何があったんです?」
「さあ、何だろうな」
軽く笑うレヴィは、まったく真意を窺わせない。
だからキーファも、それ以上は聞かなかった。
もしレヴィが探している何かを見つけられたなら、その時はきっと教えてくれるだろう。

到着した遠い街の酒場は、がらんとした店内にいくつものショーケースが置かれ、エギューラ機巧が展示されていた。
その一つ一つにキーファは歓声を上げかぶりつく。途中レヴィがたちの悪い酔客たちに絡まれて乱闘になっていたが、手助けをする間もなく余裕だった。もう少し乱闘が大きければ、どさくさに紛れて飾られているエギューラ武器を使えたかもしれない、とも思うが、さすがに年代ものの武器を壊しては不味い。
帰る時間になってキーファは、販売用の基板を十数枚を買いこんだ。
その隣ではレヴィが、小さなエギューラ細工の猫の人形を買っている。
糸を繋げればゆっくりと動き出し回転する猫を、上官は面白そうに眺めていた。
ふっとまた、何かを探す目になるレヴィに、キーファは尋ねる。
「それ、飾られるんですか?」
「ああ。何処となく似てるからな」
何に、とは言わない。だからキーファも聞かなかった。
二人は夜の道を無言で帰っていく。
いつか全ての語られなかったことが、交わる日が来るのだろう。
そんな予感を抱くキーファは、今軍部に一人でないことを―――― 幸運に思った。