剣を取りいざ

mudan tensai genkin desu -yuki

かつてその世界は、十二都市と、それぞれの都市に建つ空塔で構成されていた。
ドーム状の空が覆う限定された空間。
懐かしい思い出は何処までも「リアル」に―――― 彼の記憶に残っている。






街の中央に設置された銀行前は、与えられた装備を出し入れするプレイヤーたちで賑わっていた。
その数はざっと見て五、六十人程であろうか。ワールド内には全部で八つの街があり、プレイヤーたちはそれぞれ均等な数になるよう振り分けられたというのだから、少数精鋭もいいところだろう。
これから彼らはしばらくの間、フルダイブ型のネットゲーム「エンティティア」のテストプレイヤーとして、それぞれの冒険に旅立っていくのだ。
一つ装備を具現化させる度、そのリアルさに歓声が上がるのを、アキラはにやにやと聞き流していた。
軽装鎧にロングソードだけを手に取った彼は、傍らにいる女を見下ろす。
「何かこういうのも楽しいよな」
「……落ち着かないです」
魔法使いの格好をしているシェラは、大分薄着の服装にひどく不満があるらしい。長いマントで体をくるんで、ブローチで留めてしまっている。
アキラからすると、美しい彼女にエキゾチックな衣装は非常に似合うのだし、かつてのようにさかさまでいるよりも今の方がよっぽど楽そうに見えるのだが、彼女自身は別意見なのだろう。先程から尖っている自分の耳を違和感たっぷりの表情で触っていた。
その肩を軽く叩いて、アキラは人だかりの出来ている銀行前から移動を始める。
「このテストプレイヤーって、かなりの倍率の抽選だったんだろ? よく取れたな」
「コネです。招待がありました。他の都市の管理者にもいってると思います」
「あー、なるほど。道理で道理で」
「何が道理でなんですか?」
「シェラはゲームとかやらないタイプだから」
真面目一辺倒の研究者である彼女をそう揶揄すると、女は頬を大きく膨らませる。
そういった表情は、初めて出会った頃から大差ない。アキラは思わず噴きだして、更に彼女に睨まれることになった。
「なんですか」
「いやいや。せっかくだから狩り行こうぜ」
「……アキラは楽しそうですね」
「俺、結構ゲーム好きなんだよ。ってか、普通のプレイヤーに比べたら操作には慣れてるし……ランカー目指すか」
「ランカーってなんですか?」
「この世界に君臨してみようかと」
「やめてください。一応関係者なんですから。怒られます」
にべもないパートナーの制止に、アキラは肩を竦めた。
街の出口が見えてくる。そこから先は草原へ行く道と森へ行く道に分かれているようだった。
アキラはロングソードの先で、分岐点に立てられた看板を指す。
「どっちに行きたい?」
「あなたの方が土地勘あるんじゃないですか? 要所の配置はデータ流用していると聞きましたよ」
「第二都市には入ったことない。模型で知ってるだけ」
それに、流用していると言っても、現代都市とファンタジーの世界では様相が変わりすぎていてまったく分からない。
アキラは適当に、草原へと続く道を選んだ。まだ他のプレイヤーたちは銀行に夢中らしく、視界内に人影はない。
青草を揺らす風。目的なく進む二人は、ふと示し合わせたかのように青い空を仰ぐ。
シェラの小さな嘆息がすぐ隣で聞こえた。
「―――― 何だかアキラ、昔に戻ったみたいです」
その呟きは、童心に返っているという意味であるのか違うのか。
アキラは聞き返そうとして、だがその問いを飲み込んだ。剣を鞘に収めると、彼女の頭を撫でる。
「そうかもな。ま、またこうしてシェラとゲーム出来て嬉しいよ」
「……はい」
「よし、とりあえずプレイヤーキラーでもやるか」
「やめてください。前言撤回です。昔のあなたはもっと真面目でした」
「それ、地味に傷つく」

風の吹く草原を、二人は歩いていく。
それぞれの岐路についた世界を辿る旅は、今もリアルで、心地よいものだった。