町一番の美女

mudan tensai genkin desu -yuki

街を歩いていて注目を浴びてしまうのは、ある意味いつものことだ。
少女の時から稀有な造作を持っていたヴェオフォルミネは、何処を連れ歩いても自然と人目を集めた。
それが厄介ごとの種ではないとは言わないが、彼女自身の性格と力の方がもっと厄介なので、オーティスは然程問題視していなかった。
問題視しなければならなくなったのは、彼女が大人になり彼の妻となった後のことだ。

人里離れた湖の畔に小さな家を構えた二人は、月に二度、買出しの為に近くの町を訪れる。
それだけのことしかしていないにもかかわらず―――― どうしてこんな状況になっているのか、オーティスは口には出さず悩んだ。
町の大通りのただ中で、妻の前にひざまずいている二人の男を見やる。
どちらもヴェオフォルミネと大差ない年齢らしい青年たちは、一人が大きな花束を、もう一人が青玉の首飾りを、捧げ持っていた。彼らはまるで示し合わせたようにヴェオフォルミネへそれらを差し出す。
「是非僕と結婚を!」
「いや、私の妻になってください!」
「……お前ら、なんで俺の存在無視なんだよ」
オーティスは意味の分からぬ事態に思わずぼやく。
だがその声は彼らの耳には届いても、意識にまでは入り込めなかったらしい。真剣な表情でヴェオフォルミネを見上げている二人を、オーティスは白眼で眺めた。
求婚された当人である女は、青い目をまたたかせる。
「結婚? なんで?」
「理解しようとするな、ヴェオフォルミネ。俺にも分からないし」
「わたしは、オーティスと結婚してる……んだっけ?」
「お前まで疑うな。余計意味不明になる」
頭痛さえ覚えてオーティスは額を押さえたが、彼女の言葉は今度こそ青年たちに認識されたらしい。彼らは顔色を変えて立ち上がった。
「結婚!? この冴えない男とですか?」
「そんなはずがない。年も全然違うし……兄妹かと……」
「お前ら吹っ飛ばすぞ」
ヴェオフォルミネにつかみかからんばかりの彼らの前に結界を張りながら、オーティスはようやく状況を把握する。
つまりこの二人は買出しに来ていたヴェオフォルミネを一方的に見初めただけで、彼女自身のことは何も知らないらしい。
外見だけ見れば、確かに彼女は楚々とした美人に見えるのだ。もっともその実情は、オーティスからすると少女の頃からあまり変わりないのだが。

どうすればいいのか考えたのは短時間だ。オーティスはきっぱりと二人に言う。
「というわけで、結婚は出来ないから。諦めろ」
「馬鹿な!」
「馬鹿はお前らだ」
進まない応酬を聞きながら、ヴェオフォルミネは近くの露店に意識を戻す。山になっている果物を一つ一つ手に取って、吟味し始めた。
その間にオーティスは、食い下がり続ける青年たちにぴしぴしと不可視の礫をぶつけていく。それでも懲りない彼らに、いい加減精神操作でもしてやろうかと思い始めた時、黄色く固い実を片手にヴェオフォルミネが振り返った。彼女は顔の目の前にその実を掲げる。
「もうぐじゃってしちゃう?」
「やめろ」
細い指の中で、ぐしゃりと形を失った果物を見て、二人の青年は青ざめた。彼らは顔を見合わせると、「ちょっと腹痛が」「旅に出る時間で」など意味不明の言い訳をして逃げていく。
ようやく平穏が戻ると、オーティスは、指についた果汁をなめ取る妻の頭を軽く叩いた。
「ほら、帰るぞ」
「ぐじゃは、もったいなかった」
「まったくだ。次からはお前留守番な」
揉め事を処理できないわけではないが、年の差を指摘されると内心嬉しくない。
実年齢は外見よりも離れているオーティスは、深い溜息をつくと改めて妻の手を引いたのだった。