先祖返り

mudan tensai genkin desu -yuki

脈々と血によって受け継がれる存在。
代を経ても「存在」が薄まらない彼女たちにおいて、「特に力が強い」とは何を意味するのだろう。

濡れ縁に座り夜空を見上げているサァリは、客である夫にそんなことを聞かれて微笑んだ。
「どういうことだろうね。先祖返りって言われたこともあるけど」
「先祖……最初の神か」
「そう」
神という存在を継いでいく女たちの中でも、この世界に現出した最初の一人はやはり別格ということなのだろうか。
シシュは分かるような分からないような話に、手元の飾り紐を縒りながら頷いた。

今は自身も神という存在を分有しているせいか、分からないこともそれほど不思議と思わない。
ただ、幼い頃から両親がいない状況で、彼女が力の強さに苦しんだのではないかということは気になった。
小さな体に負わされる義務は、おそらく得られるものと釣り合わないほどに大きなものであったはずだ。
それを彼女は、ずっと一人で負い続けてきた。想像すると胸が詰まる。

シシュは縒り終わった飾り紐に半月の飾りを通すと小さく息をついた。
「大変だったな……」
「でも、シシュに会えたからいいの」
娼妓である彼女は、さらりとそんなことを言う。
苦を苦として見せない彼女は、白い指でつい、と宙をかいた。冷気の帯が宙にたなびく。
人ならざる力の現れは、彼女の足跡を象徴するように静謐で美しい。
サァリは冷気の帯をかき消すと微笑った。
「一人でいる時はよく石室の夢を見ていたの。冷たい石室で一人蹲ってる夢」
「石室?」
それは、シシュも覚えがある夢だ。彼女の気配がある石室を訪れた記憶がある。
あれと同じものを彼女もずっと見ていたというのだろうか。
サァリは透徹の目で夜空を見上げた。
「その石室には、過去の主たちの感情が染みついていてね。どれだけ皆が自分の客を待っていたかって分かるんだ」
「客を……」
それは、裏返せば孤独の蓄積だろうか。
サァリが生まれている以上、彼女たちは皆、孤独から抜け出し血を継いでいったのだろう。
だが、新たな主は客を迎えるまでは一人だ。
それは、どうすることも出来ない主たちの宿命で―――― だから次の主も、同じ道を辿るのだ。

ならばその道筋から少しでも孤独を減らせれば、と思う。
シシュは出来上がった飾り紐をサァリに渡す。
彼女は黒と白の半月が下げられたそれを、目の上の高さにぶらさげて検分した。
「うん、綺麗に出来てる」
「ならよかった」
シシュは自分の刀に提げた飾り紐とそれを見比べる。
同じものに見えても、同じではない。彼が今作った飾り紐は次代のものであるのだから当然だ。
サァリはそれを布に包んで空の桐箱に収める。
「でもちょっと羨ましいな。私の父はこういうことしてくれなかったから」
「……サァリーディ」
「ありがとう、シシュ」
彼女は桐箱を脇に置くと、まだ薄い己の腹を撫でる。
艶のある仕草は、けれど慈しみたいという不器用な情も思わせた。青い目が愛しげに伏せられる。

―――― 次の主は、どのような孤独を抱え、どんな客を選ぶのか。

まだ見ぬ娘の一生に思いを馳せて、シシュは隣り合う妻を抱き寄せる。
小さな音を立てて鞘にぶつかる半月が、白い月光を反射していた。